将来の年金額が増える「繰下げ受給」。魅力的な制度ですが、安易に選ぶと「こんなはずでは」と後悔するケースもあります。後悔しないために、制度のメリット・デメリット、そして判断前に確認すべき「3つのポイント」を解説します。
年金が増えても、ロクでもないな…〈年金月23万円〉70歳男性、「年金の繰下げ受給」を後悔する理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金「繰下げ受給」で後悔しないために…確認すべき「3つのポイント」

江藤さんのように、年金の繰下げ受給を選択する人は、少しずつですが増えています。厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、令和5年度末時点で、老齢厚生年金の受給権者のうち1.6%の44万5,178人、老齢基礎年金のうち2.2%の75万8,579人が繰下げ受給を選択しています。割合としてはまだ少数派ですが、確実に増えています。

 

繰下げ受給の最大のメリットは、1ヵ月あたり0.7%(最大で75歳受給開始なら84%)増額された年金額が、生涯にわたって続くことです。

 

一方で、当然ながらデメリットも存在します。江藤さんのケースのように、①額面が増えることで税金や社会保険料の負担が増加し、手取り額の増加は額面ほど期待できないこと、②受給開始を遅らせるため、それまでの生活費を貯蓄や労働収入で賄う必要があること、そして③早くに亡くなった場合、65歳から受給するよりも総受給額が少なくなる「損益分岐点」が存在することです。

 

では、江藤さんのような後悔をしないために、何を基準に判断すべきでしょうか。ポイントは大きく3つあります。

 

1.健康状態と平均余命

損益分岐点は、一般的に「繰下げた年数+11年9ヵ月」程度(70歳受給なら約81歳9ヵ月)とされます。自身がそれ以上に長生きできるか、健康状態に自信があるかが大きな判断材料です。 ちなみに、厚生労働省の「令和4年簡易生命表」によれば、70歳男性の平均余命は15.60年。データ上は、平均まで生きれば「元が取れる」計算になりますが、これはあくまで平均値に過ぎません。

 

2.待機期間中の生活資金

65歳から受給開始年齢までの数年間、年金なしで生活できるかが重要です。十分な貯蓄があるか、江藤さんのように働き続けられるか、家計のキャッシュフローを冷静に確認する必要があります。

 

3.「手取り額」でのシミュレーション

額面(総支給額)だけで判断するのは危険。年金が増えた場合に、税金(所得税・住民税)や社会保険料(国民健康保険料・介護保険料)がいくら増えるのか、住んでいる市区町村の窓口などで試算してもらうことが重要です。

 

繰下げ受給は、長生きリスクに備える有効な手段ですが、万人に最適な選択とは限りません。自身の健康と家計を総合的に見極めることが大切です。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』