将来の年金額が増える「繰下げ受給」。魅力的な制度ですが、安易に選ぶと「こんなはずでは」と後悔するケースもあります。後悔しないために、制度のメリット・デメリット、そして判断前に確認すべき「3つのポイント」を解説します。
年金が増えても、ロクでもないな…〈年金月23万円〉70歳男性、「年金の繰下げ受給」を後悔する理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

70歳で「月23万円」の年金生活…それでも「最悪だ」と語るワケ

「年金の受け取りを遅らせると、年金が増える。色々なところで目にするじゃないですか。年金の繰り下げ、ねんきん定期便にも書いていましたよね。私の場合、65歳で受け取り始めたら月16万円に満たないぐらいだったんですが、当時はまだ嘱託で働いていましたし、体力にも自信があった。だから、少し欲張って70歳まで繰下げることに決めたんです」

 

江藤徹さん(70歳・仮名)。今年から始まった年金受給額は、65歳時点の1.42倍に増額。さらに5年間、厚生年金に加入していた分もプラスされ、月額にして約23万円になりました。

 

月16万円と23万円では、年間にすれば80万円以上の差が生まれます。「これで老後の生活も安泰だ」と、受給開始を待ち望んでいたといいます。

 

しかし、実際に年金生活が始まってみると、その期待は思わぬ形で裏切られることになりました。

 

「確かに、通帳に振り込まれる前の『額面』は23万円です。でも、ご存知の通り、そこから色々引かれるでしょう。健康保険料に介護保険料、それに所得税や住民税。結局、手元に残る額を計算してみたら、20万円を割り込みそうなんですよね。年金が増えると大々的に言っておきながら、やっぱり取るものは取るんだなと……世の中、理不尽だと思ってしまいますよね」

 

年金の繰下げ受給を選択すると、当然ながら受給額(額面)が増加します。しかし、年金も「雑所得」として課税対象であり、社会保険料の算定基準にもなるのです。額面が増えれば、それに応じて天引きされる税金や社会保険料も増加する仕組みなので、繰下げにより増額になった分、「たくさん引かれている」という感想を抱くケースも多いようです。

 

「70歳を超えて、持病が悪化してね、医者にかかる回数もずいぶんと増えた。もう遠出はしんどくなってきた。これなら健康なうちに年金をもらって、楽しんでおくべきだったよ。それに早死したら意味ないだろ、繰下げたって。年金が増えたって、ろくなもんじゃないよな」