老後資金のためにと、定年後に資産運用を始める人は増えています。しかし、十分な知識がないまま市場に参入し、大切なお金を失ってしまうケースが後を絶ちません。なぜ、このような失敗が起きるのでしょうか。
本当に申し訳ない…〈退職金2,400万円〉60歳・元教員。人生勝ち組のはずが、年上妻も崩れ落ちた「懺悔理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年で市場に参入…なぜ「退職金」を失ってしまうのか?

老後を見据えて定年後に市場参入――健司さんのようなケースは珍しいことではありません。インフレが続くなか、老後を迎えたとしても資産運用は不可欠という一面もあるでしょう。しかし、長年真面目に働いてきた人が退職金を機に投資(実際は投機)で大きな損失を出すケースもまた、後を絶ちません。

 

アドバイザーナビ株式会社が2025年8月に発表した『60代の資産運用実態に関する調査』によると、60代で資産運用を「行っている」と回答した人は62.0%にのぼります。資産運用を始めたきっかけとして「退職金の受け取り」(12.8%)を挙げる人もおり、老後資金の運用に対する関心の高さがうかがえます。

 

しかし、同調査で「投資の失敗経験」について尋ねたところ、「いつか価格は戻るはずと期待して保有し続けた結果、さらに損失が拡大した(損切りできず)」(64.7%)や、「一時的な価格下落に慌ててしまい、冷静さを失って売却してしまった(狼狽売り)」(41.2%)、「人気が出て価格が上がっているときに買い、その後の下落で大きな損失を出した(高値掴み)」(29.4%)という、初心者にありがちな失敗が並びました。まさに健司さんが短期間での利益を求めて陥ったパターンです。

 

健司さんが陥った最大の過ちは、「投資」と「投機(ギャンブル)」を混同してしまったことです。資産運用としての「投資」は、長期的な視点で資産を育てていく行為です。金融庁も推奨する「長期・積立・分散」が基本であり、NISAやiDeCoといった制度はこの考え方に基づいています。

 

一方、健司さんが手を出したレバレッジを効かせたFXや、短期的な値上がりだけを期待した暗号資産の売買は「投機」です。短期間で大きな利益を狙える半面、健司さんのように大切に築いた資産の大部分を一瞬で失うリスクも内包しています。

 

退職金は長年の労働の対価であると同時に、老後を支える土台でもあります。これまで投資に縁がなかった人が退職を機に「周りの遅れを取り戻そう」と焦り、ハイリスクな商品に手を出すのは非常に危険です。

 

老後の資産形成を考えるのであれば、まずはご自身の資産状況と、どの程度のリスクなら許容できるのか(リスク許容度)を冷静に把握することです。そして、「投機」ではなく長期的な「投資」の視点を持つことが不可欠です。

 

[参考資料]

アドバイザーナビ株式会社『60代の資産運用実態に関する調査』