(※写真はイメージです/PIXTA)
まさか自分の身に…父の急な介護で一変した日常
「音楽だけじゃ食っていけない。そんなことは、とっくに分かっていました。でも、まさかこんな形で諦めることになるとは…」
そう力なく語るのは、本田達也さん(35歳・仮名)。都内の実家で父・正一さん(68歳・仮名)と2人で暮らしています。本田さんは、音楽活動の夢を追いながら、生活のために非正規社員として働き、月収25万円、手取り月19万円ほどの手取り収入を得ていました。
「親父とはお互いあまり干渉しない関係で、僕の稼ぎで家にいくらか入れる以外は自由でした。親父も年金をもらいながら悠々自適に暮らし、特に家のことで口出しをされることもありませんでした」
そんな日常が、ある日突然終わりを告げます。父・正一さんが脳梗塞で倒れたのです。幸い、一命は取り留めたものの、右半身に麻痺が残り、医師から告げられたのは「要介護4」。在宅での介護生活が始まりました。
「親父はまだ68歳です。残りの人生を施設で過ごさせるのは、どうしても考えられませんでした。僕が頑張れば、なんとかなるだろうと……」
在宅介護を決意した本田さんでしたが、すぐに厳しい現実に直面します。それは介護費用。1割負担で「月12万円」という現実です。
「正直、頭が真っ白になりました。親父の年金は月15万円ほど。僕の手取りが19万円。二人合わせても35万円弱。そこから12万円が消えるのは、あまりにも痛い」
介護が始まると、本田さんの生活はさらに追い詰められていきます。日中は仕事、帰宅すれば父の介助と家事。音楽活動に充てていた時間はなくなり、休業状態に。さらに、父の通院などで仕事を休むことも増え、収入は月15万円ほどにまで落ち込んでしまいました。
「自分の時間なんて、まったくありません。友人と会うこともなくなり、社会から取り残されていくような感覚です。誰かに相談したいと思っても、何をどう話せばいいのか……。『大変だね』と言われるだけで、何も解決しない。このままでは親父と共倒れだ、と本気で思うことがあります」
――助けてくれ!
そう言ったところで、誰も助けてくれるわけでもない……先の見えない不安と孤独のなかで、今日も一人、現実と向き合っています。