一刻も早く離れたい――その一心で離婚を急いだ結果、本来得られたはずの権利を失い、数年後に後悔するケースは少なくありません。感情的な勢いだけで離婚を進めると、将来の生活を揺るがす思わぬ落とし穴も。離婚届に判を押す前に、自身の未来を守るために知っておくべき法的な知識と準備についてみていきます。
もう夫とは同じ空気も吸いたくない!48歳専業主婦「モラハラ夫に三行半」で清々するも、2年後に感じた猛烈な後悔「何かの間違いでは」 (※写真はイメージです/PIXTA)

専業主婦のお前に何ができる(笑)にカチーン

八木優子さん(50歳・仮名)。2年前に48歳で離婚が成立した直後は「やっと解放された」と笑顔でいっぱいだったといいますが、今はタイムマシンがあれば戻りたいというのが本音だといいます。

 

「あまりに離婚を急ぎ過ぎました。もう少し冷静になっていれば、こんな損をすることはなかったのに……」

 

果たして、優子さんの身に何が起きたのでしょうか。

 

優子さんが元夫の賢一さん(52歳・仮名)と結婚したのは25歳のとき。以来、専業主婦として一人息子を育て上げました。傍から見れば不自由ない生活。しかし、その内実は夫からの精神的な支配が続く、息の詰まる毎日だったといいます。

 

「夫は外面はいいのですが、家では『誰のおかげで生活できているんだ』が口癖でした。専業主婦である私を、とことんバカにするんです。そういうくせに、私がパートに出たいといえば『俺の稼ぎが信用できないのか』と怒鳴り、友人との約束も嫌味を言われる。生活費は定額を渡されるだけで、自由に使えるお金はほとんどありませんでした」

 

夫の顔色をうかがう生活に終止符を打つきっかけは、息子の独立でした。「私の人生、このまま終わりたくない」と思って、改めて仕事をしたいと申し出たという優子さん。それに対し賢一さんはいつものように怒鳴り、さらに「専業主婦のお前なんかに何ができる(笑)雇ってもらえるわけがないだろ、この、役立たず!」と罵倒されたといいます。

 

「こんなに蔑まされるなか、これからも生きていくなんて……。もう夫とは同じ空気も吸いたくない!その日のうちに荷物をまとめて、用意していた離婚届を叩きつけて家を出ました」

 

しばらく、友人宅にお世話になり、派遣の仕事を始めたという優子さん。現在は時給1,800円、月手取り25万円ほどで暮らしているといいます。

 

「贅沢ができるわけではありませんが、それでも抑圧されたなか、暮らしていくよりも何百倍も幸せでした」

 

しかし、将来に対して不安がないわけではありません。専業主婦だった時間が長すぎて、これから先、劇的に給与が増えることはないでしょう。毎日の暮らしだけで精いっぱいという状況が、死ぬまで続くかもしれないと思うと、離婚が本当に唯一の正解だったのかと、自問自答しなくもないといいます。

 

そんな矢先、同僚から、離婚時に専業主婦でも夫の財産の半分(財産分与)や厚生年金の一部(年金分割)を受け取る権利があり、それには「離婚後2年」という時効があると聞いたといいます。

 

「家を出たときは、とにかく、一刻も早くこの人から離れたいという一心で……元夫から提案された『慰謝料も財産分与もなし』という条件を二つ返事で飲んでしまいました。とにかく『早く自由になりたい』という気持ちから、離婚協議書の存在すら知らぬまま離婚届に判を押してしまったのです。今では『何かの間違いでは?』と笑うしかありません」

 

自らが当然の権利を手放していたという事実に加え、財産分与を請求するための時効も迎えてしまったという事実に気づいたのです。感情が先走り、将来の生活設計を冷静に考えないまま離婚したことに対して悔しさしかないといいます。