高齢の親の介護が必要になったとき、子どもたちで公平に負担を分かち合うのが理想です。しかし、実際は経済的な格差や労力の偏りが、「親の財産」を巡る深刻なトラブルの引き金になり得ます。
えっ、嘘でしょ?79歳母の「老人ホーム費用・月29万円」に苦しむ長女、助けを求めた長男の「あの家は俺のもの」という一言に絶望 (※写真はイメージです/PIXTA)

介護の負担と相続の不公平感を是正するために

田中さん兄妹のケースで、兄・悟さんが受けた自宅の生前贈与は、介護の負担を一人で負う美紀さんにとって深刻な不公平を生じさせました。生前贈与とは、親が生きている間に財産を特定の子どもに譲り渡す行為です。そして、悟さんが受けた多額の居住用不動産(持ち家)の贈与は、相続において特別受益と見なされる可能性があります。特別受益とは、特定の相続人が、亡くなった人(被相続人)から生前または遺言によって受けた、財産上の特別な利益のことです。悟さんのケースでは、この不動産贈与がこれに該当します。

 

特別受益と認められた場合、公平な相続を実現するため、その贈与財産は将来の相続財産に加算し直して計算されます。これを特別受益の持ち戻し計算と呼び、財産の均等化が図られます。

 

さらに、美紀さんには、法定相続人として受けられる最低限の相続割合である遺留分が認められています。悟さんの生前贈与によって美紀さんの遺留分が侵害されている場合、美紀さんは遺留分侵害額請求を行うことで、最低限の取り分を取り戻すことが法的に可能です。

 

このような兄弟間の相続トラブルを防ぐには、親が生前贈与をする前に、法定相続人全員の同意を得ておくことが何より重要です。同意のない贈与は、後の遺産分割協議を停滞させ、家庭裁判所での調停に発展しかねません。手遅れになる前に親の財産状況を把握し、公正証書など公的な記録で意思を残すことが、不公平な事態から家族を守るための鍵となります。

 

「まさか、私が施設の費用負担に苦しんでいる間に、兄が実家を手に入れていたなんて……どうして教えてくれなかったのだろうと、今でも煮えくり返るような怒りを感じます。この事実を知った瞬間、兄との関係は、もう修復不可能だと悟りました」

 

[参考資料]

法テラス『遺留分・寄与分・特別受益に関するよくある相談』