(※写真はイメージです/PIXTA)
「自分だけのお金」という幻想が招いた悲劇
証券・金融商品あっせん相談センターが四半期ごとに公表している「紛争解決手続事例」にも、明彦さんと同様のFXに関連する事例が報告されています。
〈申立人〉
為替についてまったく知識のない申立人が求めていないにもかかわらず、被申立人担当者はFX取引を勧め、申立人が何度断っても執拗に勧めてきた。申立人は断り切れず取引に応じ、損害約2,900万円(70代女性)
〈被申立人〉
申立人は外貨建て金融商品の取引経験があり、為替については相応の知識を有し、FX取引に興味を示したので、取引の概要等を十分説明した。申立人は自らの判断で取引を行っており、取引経過に伴う損失拡大を取り返すために積極的に投資をする意向であった
出所:特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター『紛争解決手続事例』より一部抜粋
明彦さんの場合、なぜ、大きな失敗をしてしまったのでしょうか。原因は大きく2つ考えられます。
第一に、「退職金を自分だけのものと考えたこと」です。長年の労働の対価である退職金ですが、それは配偶者の支えがあってこそ得られた夫婦の共有財産。その認識を欠き、独断で運用を決めたことが、最初の過ちでした。
第二に、「金融商品のリスクを理解せず、担当者に依存したこと」です。特にFXは、「レバレッジ」という仕組みにより、少ない資金で大きな金額の取引ができるのが特徴。たとえば、10万円の証拠金で、その10倍の100万円分の取引ができる、といった具合です。これは「てこの原理」に似ており、うまくいけば大きな利益を得られますが、逆に相場が少しでも不利な方向に動けば、証拠金を上回る莫大な損失を被る危険性をはらんでいます。
老後資金は、夫婦2人の未来を支える大切な命綱であり、その運用方針をどちらか一方が決めるのはあまりにも危険です。悲劇を避けるために、以下の3ステップで夫婦の対話を始めることが不可欠です。
①お互いの老後に対する価値観を共有する(どんな生活を送りたいか、何にお金を使いたいか)
②現在の資産状況(預貯金、年金見込額など)を二人で把握する
③その上で、リスク許容度について話し合い、共に運用方針を決める
「……そうですね、そもそも私の傲慢さゆえの失敗。言い訳はできないです」
[参考資料]
特定非営利活動法人証券・金融商品あっせん相談センター『紛争解決手続事例』
金融庁『高齢社会における金融サービスのあり方』