親を想うからこそ、最高の環境を用意したい。その一心で選んだ最新の設備が整った「終の棲家」。しかし、手厚いケア環境が、必ずしも本人の幸せに繋がるとは限りません。現代の高齢者の住まい選びに潜む、愛情ゆえの「誤算」について考えます。
何かの間違いでは…85歳・元数学教師の父に最新老人ホームを勧めた息子の悲しい誤算。「ここで死んでいくんだな…」とポツリ (※写真はイメージです/PIXTA)

「終の棲家」選び…身体的ケアと精神的健康のバランス

高齢者の住み替え先としても人気が高まる「老人ホーム」。しかし施設を選ぶなかで、身体的な安全(フィジカルヘルス)を重視するあまり、本人の「精神的な健康(メンタルヘルス)」や「QOL(生活の質)」が見過ごされがちになることも少なくありません。

 

内閣府『令和5年版高齢社会白書』を見ても、高齢者が住み替えを考える際に「医療機関との連携」や「介護サービス」を重視する傾向が見て取れます。特に、離れて暮らす家族にとっては、親の「万が一」に備えられるスペックの高い施設こそが、最良の選択肢に見えるのは当然のことでしょう。

 

しかし、その一方で、同調査では多くの高齢者が生きがいとして「友人・知人との交際」や「趣味・娯楽」を挙げています。つまり、心身の安全という土台の上で、他者と関わり、知的好奇心を満たすことこそが、豊かな老後には不可欠なのです。

 

和夫さんのように知的な活動を好むのであれば、大学と連携した生涯学習プログラムがある施設や、サークル活動が活発な施設のほうが、より充実した日々を送れたかもしれません。また、社交的な人であれば入居者間の交流イベントが盛んな施設、静かに過ごしたい方であればプライバシーが重視される施設など、本人の性格やこれまでのライフスタイルに合わせた「相性」の見極めが重要です。

 

終の棲家選びは、カタログスペックの比較だけで完結するものではありません。本人と家族が「安全な暮らし」の先にある「自分らしい生き方」をどう実現していくかという視点を共有し、見学や体験入居を通じて、施設の雰囲気や他の入居者の様子を肌で感じることが、ミスマッチを防ぐための鍵となるでしょう。

 

[参考資料]
内閣府『令和5年版高齢社会白書』