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3割が「誰にも相談せず」、背景に「解決への諦め」
ハラスメントという理不尽な被害に遭いながらも、声を上げられずにいる人が少なくないことも、今回の調査で明らかになりました。ハラスメント経験者のうち、31%が「誰にも相談していない」と回答しています。特に男性(37%)は女性(23%)よりもその傾向が強く、年代別では40代以上(33%)が20代(24%)を上回りました。
なぜ相談という選択肢を取らないのか。その理由として最も多かったのは、「相談しても解決にならないと思ったから」(68%)というものでした。これは、職場の問題解決能力に対する根強い不信感や、過去の経験に基づく諦めが背景にあると考えられます。
相談した相手としては、「上司」(32%)が最も多く、次いで「同僚」(25%)、「家族」(20%)と続きます。しかし、実際に誰かに相談した人のうち、状況が好転したのはわずか27%(「解決した」11%、「解決しないまでも改善した」16%)に過ぎませんでした。その一方で、「解決しなかった」が63%、「状況が悪化した」が10%と、合わせて73%のケースで問題が放置されるか、かえって事態が悪化しているという厳しい現実が示されました。
「解決できなかった」エピソードとしては、「課長からのハラスメントを部長に相談したが、課長が部長より年上のせいか注意さえしてもらえなかった」(20代男性)、「相談窓口は会社に報告しただけで何の変化もなかった。その後先輩に相談したら今度は先輩がターゲットになり迷惑をかけてしまった」(30代女性)など、組織の力学や相談窓口の機能不全を指摘する声が多く聞かれます。
さらに深刻なのは、相談したことで状況が悪化するケースです。「相談した事がバレてより酷い扱いを受けるようになった」(30代男性)、「社内通報窓口に相談したところ犯人探しが始まってしまった」(40代男性)、「相談をしたら『メンタルが弱いだけだ』と逆にハラスメントを受けた」(20代男性)といった、二次被害とも言える事例が後を絶ちません。このような経験が、「相談しても無駄だ」という諦めを組織内に蔓延させ、被害者が沈黙せざるを得ない状況を生み出しているのです。
もちろん、「人事に相談したところハラスメントをした人が異動となった」(30代女性)、「上層部が抜き打ちで事業所訪問をしてくれたことでハラスメントが収まった」(30代女性)など、組織が適切に対応し、解決に至った例も存在します。これらのケースでは、当事者間だけでなく、人事や上層部といったより客観的で権限を持つ第三者が介入している点が共通しています。
2022年4月に改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が中小企業にも義務化され、企業のハラスメント対策は社会的な責務となりました。今回の調査では、職場のハラスメント対策について45%が「実施している」と回答し、2024年の同調査から8ポイント上昇しました。しかし、依然として31%、約3社に1社が「実施していない」と回答しており、対策の浸透にはまだ課題が残ります。
ハラスメントは個人の問題ではなく、組織の生産性を著しく低下させ、人材流出にもつながる経営上のリスクです。形骸化した対策ではなく、従業員が安心して声を上げられ、問題が適切に解決される実効性のある仕組みと、ハラスメントを許さないという断固とした組織文化の醸成が、今まさに求められています。
[参考資料]
エン株式会社『「ハラスメント」に関する実態調査ハラスメントを受けた経験がある方の3割が「誰にも相談しなかった」。職場のハラスメント対策、進展の一方で31%が未実施』