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部下が求めるのはスキルより「対話」、やる気を削ぐ一方的な姿勢
リモートワークやチャットツールが普及し、ビジネスにおけるコミュニケーションのあり方は大きな変革のときを迎えました。効率的な情報交換が可能になった一方で、対面での雑談や細やかな意思疎通の機会は減少し、上司が部下の本音や隠れた課題を把握しにくくなる「表層的なマネジメント」に陥るケースも少なくありません。光学・精密機器メーカーのカールツァイスが管理職と一般社員計1,000名を対象に実施した調査から、現代の職場における上司と部下の深刻なギャップが浮き彫りになりました。
調査によると、一般社員が考える「理想の上司」として最も多く挙げられたのは、「話しかけやすく相談しやすい」(32.6%)でした。次いで「コミュニケーション能力が高い」(27.2%)、「公正公平に判断し贔屓がない」(25.4%)と続き、部下は上司に対して、高度な専門スキルやカリスマ性よりも、まず人として安心して対話できる姿勢を求めていることが明らかになりました。興味深いのは、「部下のキャリア形成をサポートする」(17.2%)という項目が最下位だった点です。これは、キャリア支援といった具体的なアクションよりも先に、日々のコミュニケーションにおける心理的安全性の確保が求められていることを示唆しています。
一方で、仕事へのモチベーションを低下させる上司の言動については、「アドバイスは多いが、こちらの意見は聞いてくれない」(63.6%)が最多となりました。続いて「フィードバックで理由や背景を聞かずに否定的な指摘をされる」(61.8%)、「ヘルプを求めた時に具体的な指示などなく『がんばれ』とだけ言われる」(60.0%)といった項目が上位に並びました。これらの結果は、たとえ上司からのアドバイスが正論であったとしても、部下の意見に耳を傾けず、背景を理解しようとしない一方的なコミュニケーションが、部下の意欲を大きく削いでいる現実を示しています。
この背景には、部下が上司に対して本音を言えないという構造的な問題も存在します。一般社員の半数以上が「上司の気持ちを気遣って、言いたいことを我慢している」(54.8%)と回答しており、多くの職場で部下が上司の顔色をうかがい、健全な意見交換ができていない状況が推察されます。調査では、「マネジメントにおいては、部下を単なる労働者として扱うのではなく、一人の人間として尊重し、安心して対話できる時間と姿勢を示すことが、信頼関係やパフォーマンス向上の鍵である」と分析しています。
1on1の頻度が関係の質を左右
上司と部下の関係性を深める有効な手段として知られる1on1ミーティングは、その「頻度」が関係の質に大きく影響していることも、今回の調査で明らかになりました。管理職に対して部下との関係性を尋ねたところ、「1ヵ月に1回以上」の頻度で1on1を実施している層では86.3%が「部下との関係が良好」と回答しました。これに対し、「半年に1回以下」の層では68.0%にとどまり、約18ポイントもの差が見られました。
1on1の頻度が低い背景には、管理職側の事情も透けて見えます。「半年に1回以下」しか1on1を実施していない管理職の約6割が、「忙しさから自分の仕事を優先してしまう」(58.6%)と回答しており、部下と向き合うための時間を意図的に確保することの難しさがうかがえます。
しかし、この時間投資は、部下の定着率にも大きく関わっているようです。一般社員に上司に本音を言えているか尋ねたところ、「本音を言えている」と回答した層の約9割が、「退職・休職を真剣に検討したことがない」と答えています。定期的な対話の場を通じて本音を話せる関係性が構築されることが、部下の不満や問題を未然に防ぎ、エンゲージメントを高めることにつながっていると考えられます。調査によると、部下のモチベーション維持や組織の健全性を高める鍵は、上司の「傾聴姿勢」と「対話への時間投資」にあると結論づけています。