子の人生における大きな節目である住宅購入。その資金計画をめぐり、親の経済状況が浮き彫りになることがあります。喜ばしいはずの我が子の決断が、親世代に「家庭内での立ち位置」を痛感させる……。そこには、子の期待と親の現実を前に横たわる大きな溝がありました。
情けない…〈年収700万円〉38歳息子、義実家から援助を受けて〈都内・億ション〉購入。援助したくてもできない「68歳実父」の憂鬱 (※写真はイメージです/PIXTA)

義父母に感謝を述べる息子の隣で…父が感じた格差

約1ヵ月後、健司さん夫婦は、達也さんの新居に招かれました。都内の新築マンションは、健司さんたちが想像していた以上に立派なものでした。リビングには妻方の両親も招かれており、和やかな雰囲気で会は進みます。

 

しかし、健司さんの心は晴れませんでした。息子夫婦が何度も心から妻方の両親へ感謝を伝える姿を見るたびに、自分たちの存在が小さくなっていくように感じられたからです。なけなしのお金から用意した10万円の新築祝いも、どこか虚しく思えてしまいました。

 

問題は、お金だけの話ではない、と健司さんは語ります。

 

「結局のところ、私は父親として息子の力になってやれなかった。その事実が情けなく、そして悔しいのです。私はただの傍観者。息子との間に深い溝ができたような気がしました」

 

健司さんのように、子のマイホーム購入に際して、経済的な理由から援助ができず、寂しさや疎外感を覚える親世代は少なくないのではないでしょうか。

 

国土交通省『住宅市場動向調査(令和6年度)』によると、新築分譲マンション購入世帯の世帯主の年齢は平均40.5歳、購入価格は平均4,365.6万円で、自己資金比率は32.7%です。自己資金の内訳をみると、預貯金や退職金などが1,393万円、不動産売却が414万円、そして住宅取得贈与の対象となる贈与が141万円でした。自己資金に占める割合は少ないものの、親からの援助は珍しくないといえるでしょう。また贈与した親の年齢は平均71.3歳。年金で暮らす高齢の親が「子どものために」と使わずに貯めてきたお金で、子の住宅取得を後押しする……そんな構図が浮かびます。

 

一方で、親世代の家計に目を向けてみましょう。総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の高齢夫婦の1ヵ月の消費支出は平均25万6,521円で、月平均3万4,058円の赤字となっています。また厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の59.0%が「生活が苦しい」と感じ、25.2%が「大変苦しい」と回答。自分たちの生活で精いっぱい……それが年金に頼る多くの高齢者の実情なのです。

 

子ども世代の「親からの援助への期待」と、親世代の「援助したくてもできない現実」。この乖離が、健司さんのような心の溝を生むのでしょう。老後における自助努力が叫ばれるなか、こうしたケースは今後ますます増えていくのかもしれません。

 

[参考資料]

国土交通省『住宅市場動向調査(令和6年度)』

総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』

厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査』