「日当たりの良い南向き」は、マンション選びの王道のはず。しかし、東京の湾岸エリアのタワーマンションに限っては、その常識が通用しないことが、実際の取引データから見えてきました。資産価値を大きく左右するのは、方角という単純な話ではないようです。
なぜ湾岸タワマンは「南向き」に飛びつくと後悔するのか…資産価値を左右する「たった1つの視点」 (※写真はイメージです/PIXTA)

データが示す、リアルな「眺望格差」

東京の湾岸エリア、特に勝どきや晴海。ここ数年ですっかり街の景色が変わり、今や誰もが憧れる高級住宅街になりました。ずらりと並ぶタワーマンションの魅力は、都心まですぐという便利さと、目の前に広がる海の気持ちよさを両方味わえること。多くの人が惹きつけられるのも当然です。

 

ふつう、マンションの価格は駅からの距離や新しさで決まります。しかし、このエリアではその常識が通用しません。「窓から何が見えるか」、つまり眺望で値段が大きく変わってしまいます。同じマンションの同じ階でも、向きが違うだけで数千万円の差がつくことも珍しくないのです。

 

マンションリサーチ株式会社が行った調査で、この「景色と価格の関係」がデータではっきり示されました。今回調査の対象になったのは、「ザ・東京タワーズ」「勝どきザタワー」「パークタワー勝どきサウス」という、湾岸エリアを代表する3つの巨大タワーマンションです。取引事例がとても多いので、ここを分析すれば、景色ごとのリアルな価格の動きが見えてくるというわけです。

 

調査方法はシンプルで、マンションの向きごとに、これまでの成約価格のデータをグラフ化。これで、「どの景色が一番人気なのか」がひと目で分かります。 その結果、「南向きなら高い」なんて単純な話ではない、はっきりとした景色のランク付けがあることが分かってきました。

 

ケース1:ザ・東京タワーズ

2008年にできた「ザ・東京タワーズ」は、約2,800戸もあるツインタワーで、湾岸エリアのシンボル的な存在です。築15年以上経ちますが、人気はまったく衰えません。

 

ここの価格を調べると、南西向きが一番高く、次に南東向きが人気という結果がはっきりと出ました。 南西の部屋の窓からは、目の前にさえぎるものが何もなく、レインボーブリッジがドーンと見えます。夜になれば、ライトアップされた橋と都心の夜景がキラキラと輝きます。この景色にこそ、高いお金を払う価値があると多くが考えているわけです。 一方の南東向きは、広い東京湾が見渡せる開放感が魅力で、こちらも安定して高い価格を保っています。このマンションの価値は、「レインボーブリッジ」と「海」で決まっている、何よりの証拠です。

 

ケース2:勝どきザタワー

次に、2016年完成の「勝どきザタワー」。資産価値の高さで有名なマンションです。

ここでも一番人気は、やはりレインボーブリッジが見える南西向きでした。景色の価値は絶対的だということが、ここでも証明された形です。 しかし、面白いのは2番目に高かったのが北西向きだったこと。北向きは日当たりが悪いと避けられがちですが、ここの北西向きの部屋からは、浜離宮恩賜庭園の広大な緑と、その向こうに広がる汐留や銀座のビル群が見渡せます。 「都心のど真ん中なのに、緑と都会の両方の景色が楽しめる」。この珍しい組み合わせが、日当たりのマイナスを補って余りある魅力になっているようです。

 

ケース3:パークタワー勝どきサウス

2023年にできたばかりの「パークタワー勝どきサウス」も見てみましょう。

 

ここでも結果は同じ。レインボーブリッジが見える南西向きが、ずば抜けて高い値段をつけていました。それに南向きと南東向きが続きます。建物の新しさに関係なく、やはりこの景色が値段を決める一番の理由だということがよく分かります。 調査によると、たとえ橋が少ししか見えなくても、視界が開けている「抜け感」があるだけで価格はプラスになるそうです。「レインボーブリッジ」と「海の開放感」が最強の組み合わせであることは、新しいマンションでも変わらないようです。