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自分の身を守るために知っておきたい「財産分与」の知識
中本夫婦のように、長年連れ添った夫婦が離婚する「熟年離婚」は増加傾向にあります。厚生労働省『令和4年度 離婚に関する統計の概況』で離婚した夫婦の同居期間について見ていくと、同居期間が「5年未満」の割合は一貫して低下傾向にあります。多少の上下はありつつも、平成8~9年の40.1%をピークに、その後も同様の傾向が続いています。一方、同居期間が「20年以上」の割合は一貫して上昇傾向にあり、令和2年には21.5%と過去最高を記録しました。そのようななか、長年の結婚生活の末に、財産分与を巡って深刻なトラブルに発展する夫婦は少なくありません。
離婚時、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産(共有財産)は、貢献度に応じて分配されます。これを財産分与といい、専業主婦(主夫)の貢献も認められるため、原則として2分の1ずつに分けるのが現在の家庭裁判所の考え方です(2分の1ルール)。共有財産には、預貯金や不動産、生命保険、自動車などが含まれ、どちらか一方の名義であっても対象となります。
一方で、今回のケースの争点となったのが「特有財産」の存在です。特有財産とは、民法第762条1項で定められており、①婚姻前から一方が所有していた財産、②婚姻中であっても、親からの相続や贈与によって得た財産のことを指します。これらは、夫婦の協力とは無関係に得た財産とみなされるため、原則として財産分与の対象にはなりません。
浩二さんは、この制度を巧みに利用し、「親からの相続財産」を共有財産と明確に区別して管理することで、分与する資産を意図的に少なくしたのです。
ただし、相手が「特有財産だ」と主張しても鵜呑みにする必要はありません。それが本当に特有財産であるかは、通帳の入出金履歴など、客観的な証拠によって証明される必要があります。また、たとえば相続した不動産の価値を維持するために、共有財産から固定資産税や修繕費を支払っていた場合など、配偶者の貢献が認められ、一部が分与対象となる可能性もあります。どちらにせよ、その線引は素人には難しいので、専門家に頼るのが正解です。
夫婦関係が円満なうちは、お金の話はしにくいものです。しかし、万が一の事態に自分の生活を守るためには、お互いの資産状況を把握し、財産分与に関する正しい知識を持っておくことが重要といえるでしょう。
「離婚を回避することは難しい……復縁は諦めました。ただ夫の言われるがままでは、家族に捧げてきた28年間が無意味になってしまいます。退職金だって、年金だって、分けられるはず。最後まで戦うつもりです」
[参考資料]
厚生労働省『令和4年度 離婚に関する統計の概況』
e-Gov 法令検索『第七百六十二条(夫婦間における財産の帰属)』