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月15万円の年金生活…「老後破綻」の現実味
孫の学費援助を始めてから6年。あれほどあったはずの貯金は、気づけば1,000万円を切るまでに減っていました。翔太くんの高校卒業が目前に迫ったある日、良子さんは言いようのない不安に駆られていました。
そんな矢先、明子さんから明るい声で電話がかかってきます。「お母さん、いつもありがとう。翔太も無事に卒業できそうよ」。感謝の言葉に良子さんの心も和みます。しかし、その直後に続いた「まさかの一言」に、良子さんは血の気が引く思いをしました。
「それでね、相談なんだけど。大学も、本人の希望で私立になりそうなの。これからも、お母さんの援助をお願いしたんだけど……」
ここで断れば、孫の進学の道を閉ざしてしまうかもしれない。しかし、このまま援助を続ければ、自身の老後はさらに不安定なものになってしまう。受話器を握りしめたまま、良子さんは言葉を失ってしまいました。
厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』によると、公的年金を受給している高齢者世帯において「所得の100%が年金」という世帯は、43.4%。「80~100%」という世帯も合わせると6割弱になります。一方で、昨今の物価高のなか、年金の受給額は目減りしており、年金が頼りの高齢者の生活は厳しさを増しています。
また、教育費の負担も年々大きくなっています。文部科学省『令和3年度子供の学習費調査』によると、私立中学校で3年間にかかる学習費の総額は約320万円、私立高校(全日制)では約315万円にもなり、6年間では総額600万円を超えます。さらに私立大学の4年間の平均学費は、文系で約400万円、理系で約540万〜550万円程度。一般家庭には大きな負担となるため、親を頼りたくなるのも仕方がないかもしれません。
しかし、良かれと思って始めた孫への援助が、自身の首を絞める結果になりかねない現実。家族間の金銭援助では、援助する側とされる側の間に、認識のズレが生じがちです。特に教育費のような長期にわたる援助の場合、「いつまで」「いくらまで」という明確なルールを事前に家族全員で話し合っておくことが、悲劇を避けるためには不可欠です。
また教育費の援助をする場合、税金にも気を配りたいものです。年間110万円までの贈与は原則非課税。さらに祖父母など直系尊属から30歳未満の子や孫へ教育資金を一括で贈与する際に、最大1,500万円までが非課税となる特例制度もあります。暦年贈与の基礎控除110万円とは別枠で活用できるため、計画的な資産移転の手段として注目されています。利用するには、金融機関で専用の「教育資金口座」を開設し、所定の非課税申告を行います。教育資金を支払った後、その領収書等を提出することで口座から資金を引き出す仕組みです。本制度の期限は令和8年3月31日まで。次世代へのサポートを考えるうえで、押さえておきたい制度のひとつといえるでしょう。
[参考資料]
厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』
文部科学省『令和3年度子供の学習費調査』
国税庁『祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし』