夫婦生活の終わりに待つのは、明るい未来か、それともどん底か――。熟年離婚は珍しくなくなった今、長年連れ添った関係を解消する決断には、感情だけでなく老後の経済や生活設計までもが大きく影を落とします。
「あなたといると息が詰まる」結婚40年、〈年金月25万円〉65歳夫に三行半を突き付けた専業主婦の妻。離婚半年後、元夫のSNSで悔し涙が止まらないワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

熟年離婚の落とし穴…「年金分割」の誤解

春子さんのようなケースは、決して珍しいことではありません。厚生労働省『令和6年 人口動態統計』によると、同居期間20年以上の夫婦の離婚件数は40,684組。離婚全体の約21.8%を占め、過去最多を記録しました。熟年離婚は、もはや特別なことではありません。

 

【熟年離婚組数と離婚全体における割合】

2000年:41,824組(15.80%)

2005年:40,395組(15.40%)

2010年:40,084組(15.90%)

2015年:38,648組(17.10%)

2020年:38,981組(20.20%)

2021年:38,968組(21.10%)

2022年:38,991組(21.80%)

2023年:39,810組(21.70%)

2024年:40,684組(21.90%)

 

また多くの人が春子さんのように「年金分割をすれば安心」と考えがちですが、ここに大きな落とし穴があります。

 

「年金分割」で分割されるのは、婚姻期間中に納付した厚生年金の「報酬比例部分」のみです。つまり、夫婦の基礎となる国民年金(老齢基礎年金)部分は対象外。さらに、元夫の年金が丸々半分もらえるわけではなく、あくまで婚姻期間中の厚生年金記録を最大2分の1まで分割できるという制度です。

 

また、企業が独自に上乗せしている企業年金や確定拠出年金(iDeCo)などは、原則として年金分割の対象外となるケースが多く、これらが老後生活の大きな支えとなる男性側との経済格差は、想像以上に開いてしまうのです。

 

このような事態を避けるためには、離婚前に冷静に財産分与について話し合うことが不可欠です。司法統計年報(令和4年度)によると、離婚調停や審判における財産分与で、解決金額が100万円以下というケースも少なくありません。

 

まずは、夫婦の共有財産を正確に把握することから始めましょう。

 

・預貯金(夫婦それぞれの名義分すべて)

・生命保険や学資保険(解約返戻金の額)

・不動産(自宅マンションや土地)

・有価証券(株式、投資信託など)

・自動車

・退職金・企業年金

 

これらをリストアップし、財産分与の対象となるものを明確にしたうえで、専門家も交えて話し合うことが重要です。

 

さらに、専業主婦期間が長かった女性が経済的に自立するためには、仕事を見つけることが急務となります。しかし、年齢やブランクが壁となり、思うような職に就けないのが現実です。まずはハローワークや地域の女性就業支援センターなどに相談し、キャリアの棚卸しをしてみましょう。介護職員初任者研修や医療事務、簿記といった資格を取得することも、再就職への有効な一手となります。

 

「自由」には、経済的な自立が不可欠。長年の結婚生活に終止符を打つ決断をする前に、離婚後の生活を具体的にシミュレーションし、十分な準備をすることが、悔いのない第二の人生への第一歩になります。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和6年 人口動態統計』

裁判所『司法統計年報』