(※写真はイメージです/PIXTA)
親の死後待つのは「資産」と「負債」
美咲さん一家が直面しているのは、80代の親が50代の子どもの生活を経済的に支える「8050問題」の典型的なケースです。
厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』によると、女性が世帯主の高齢者世帯は400.8万世帯。単独世帯、夫婦のみの世帯を引いた「その他の世帯」は15.1万世帯。母と未婚の子という構成は、このなかの多くを占めると考えられます。
また2022年に内閣府が行った調査によると、15~64歳でいわゆる「ひきこもり」状態にあるとされるのは推計146万人。そのうち、40~64歳の中高年の割合は約52%と半数を占めます。つまり70万人以上いると考えられています。
どのような状態であれ、問題は子が親の年金に頼りきっているというケースです。総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、高齢女性の単身世帯の消費支出は月15万5,923円。一方、和子さんが受け取る年金は月15万円。遺族年金分は非課税であることを考慮しても、手取りにすると月13万~14万円ほどになります。さらに和子さんの場合、一樹さん分の生活費と小遣いも負担しているため、恒常的に赤字体質の家計で、貯蓄からの取り崩しが必須であることは、火を見るよりも明らかです。
そして最大の問題は、大黒柱である和子さんが亡くなったあとです。和子さんの死亡とともに、月15万円の年金収入は完全に途絶えます。無職で収入のない一樹さんに残されるのは、実家と、残っていれば預貯金など。仮に美咲さんは相続放棄したとしても、無職というあまりに重い負債が立ちはだかります。
実家を売却して生活資金に充てようと考えても、買い手がすぐに見つかるとは限りません。住み続けるなら、固定資産税や維持管理費だけでも重くのしかかります。仕事をしようにも、社会から長期間孤立してきた人間が、50代を過ぎてから安定した職を見つけるのは極めて困難です。生活が瞬く間に破綻することは確実です。
こうした最悪の事態を避けるためには、親子だけで問題を抱え込まず、早期に第三者に相談することが不可欠です。全国の市町村に設置されている「地域包括支援センター」や「社会福祉協議会」、あるいは「ひきこもり地域支援センター」といった公的機関では、本人だけでなく家族からの相談も受け付けています。
「確かに高齢になる母を兄が面倒をみてくれている。だから私がとやかく言う権利はないかもしれない。しかし、将来、兄だけでなく、私にも問題は降りかかってくる。母が元気なうちに、何とかしないと……見て見ぬふりはできません」
美咲さんは、手遅れになる前に外部の支援を求めることを決意したといいます。
[参考資料]
厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』
総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』