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母の年金は「俺の財布」…事態の深刻さに気づかない母と兄
「母はもう、正常な判断ができないのかもしれません……」
都内の企業で働く田中美咲さん(45歳・仮名)は、先日、久しぶりに北関東にある実家へ帰省した際、信じがたい光景を目の当たりにしたといいます。美咲さんの実家に暮らすのは、年金暮らしの母・和子さん(78歳・仮名)と、無職の兄・一樹さん(52歳・仮名)がの2人。父親は10年前に他界。一樹さんは地元の工場を辞めてから20年近く、定職に就かずに実家で生活を続けているようだといいます。
「兄は定職には就いていないものの、日雇いの仕事をするなどしていると聞いていました。たまに電話で様子を聞いても、母はいつも『こっちは大丈夫よ』としか言わないので。ここまで深刻だとは思ってもいませんでした」と、美咲さんは語ります。
問題が露呈したのは、夕食の食卓でのことでした。和やかな雰囲気のなか、一樹さんが何か思い出したように「そういえばお母さん、今月の……」と言うと、和子さんが「ああ、悪いね」と席を立ち、いそいそと封筒を持ってきて一樹さんに渡しました。美咲さんがその封筒が何なのか尋ねると、一樹さんは悪びれることもなく、「あぁ、今月のお小遣い」と言いました。
その言葉に、美咲さんは耳を疑いました。和子さんの年金は、亡くなった父の遺族年金と合わせて月におよそ15万円。そのなかから、和子さんと一樹さんの2人分の生活費はもちろんのこと、「一樹さんの月7万円の小遣い」までも捻出しているといいます。日雇いながら仕事をしていると思っていましたが、実際はそんなことはなく、一樹さんはほぼ引きこもり状態の生活を送っているといいます。
美咲さんは、このままではいけないと口を開きました。
「お母さん、もうやめなよ。お兄ちゃんはだって50過ぎているんだよ。もしお母さんが病気で倒れたりしたら、あっという間に共倒れだよ」
現実を突きつける言葉に、兄は怒りを露にしたといいます。
「うるさいな! お前には関係ないだろ! たまに帰ってきて偉そうなこと言うな!」
テーブルを叩き、声を荒らげる一樹さん。さらに美咲さんを絶望させたのは、母・和子さんの反応でした。
「まあまあ、一樹の言う通りよ。美咲は心配しすぎ。私たちは私たちで、うまくやってるんだから」
そう言って、逆上する兄をかばったというのです。現実から目を背け、互いに依存し合うことでかろうじて成り立っている母と兄の共依存関係。それを目の当たりにした美咲さんは、しばらく言葉が出なかったといいます。