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5,000万円で何年暮らせる?「老後2,000万円問題」の落とし穴
老後資金に対する大きな認識のずれが露呈した金田さん夫婦。ここで、客観的なデータを見てみましょう。
総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における消費支出は平均月25万6,521円。一方で可処分所得は22万2,462円。月に3万円以上の赤字になる計算です。しかし、これはあくまで平均的な生活レベルの話です。生命保険文化センター『2022(令和4)年度 生活保障に関する調査』によれば、夫婦2人が「ゆとりある老後生活」を送るために必要と考える金額は、平均で月37.9万円。同じく可処分所得が約22万円だとすると、毎月15.9万円、年間で約191万円が不足することになります。
この計算で良雄さんの貯蓄5,000万円を取り崩していくと、どうなるでしょうか。
5,000万円 ÷ 191万円/年 ≒ 26.1年
60歳で退職した良雄さんが86歳になる頃には、貯蓄が底をつく計算。「人生100年時代」といわれる現代において、決して十分とはいえない期間です。
さらに、このシミュレーションが本当に恐ろしいのは、あくまで「平均的な生活」を続けた場合の話であり、「想定外の支出」が一切含まれていない点です。聡子さんが懸念していたように、老後には様々な臨時出費が待ち構えています。たとえば介護費用。生命保険文化センター『令和3年度 生命保険に関する全国実態調査』では、介護にかかった費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、住宅改修などの一時的な費用が平均74万円、月々の費用が平均8.3万円となっています。平均介護期間は5年1ヵ月(61.1ヵ月)とされており、単純計算すると総額で約581万円が必要になります。
夫婦2人であれば、この倍の金額が必要になる可能性も十分に考えられます。このほか、家のリフォーム、車の買い替え、子や孫への援助……想定には含まれていない出費がいろいろあります。これらを考慮すると、確かに「5,000万円」という金額の安心感は、大きく揺らぎます。
とはいえ、これはあくまでも調査結果をもとにしたシミュレーション。家計の実態も、老後生活に対する考え方も人それぞれ。そのため、大切なのは夫婦が共通の認識をもち、日々の家計を管理し、将来のリスクに備えること。その第一歩として「対話」が必要です。
実は、大した相談もなく、定年を機に仕事を辞めることを決めてしまった良雄さんに沸々とした怒りを抱いていたという妻・聡子さん。どこか呑気に未来を語る夫に、堪忍袋の緒が切れたわけです。
「妻が怒っているなんて、思ってもみませんでした。結婚30年も経つのに……恥ずかしい限りです。ただ怒っているかどうかは別として、妻の言っていることはごもっとも。そこで今はやりのスキマバイトでも始めて、少しでも資産寿命を延ばせたらと考えています」
[参考資料]
総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』
生命保険文化センター『2022(令和4)年度 生活保障に関する調査』
生命保険文化センター『令和3年度 生命保険に関する全国実態調査』