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悠々自適な老後を語った夫に、妻がイラッ!
(今までよく頑張ったよな、俺)
長年勤めた会社を、60歳の定年を機に退職した金田良雄さん(仮名)。このあと会社から振り込まれる退職金は2,300万円。妻・聡子さん(55歳・仮名)が管理している預貯金も合わせると、貯蓄額は5,000万円の大台になっているはずです。
会社からは再雇用の打診もありました。しかし、嘱託社員として給料も下がり、かつての部下に指示されるような立場になるのはプライドが許さない。同僚に気を遣わせながら会社にしがみつくより、余裕のあるうちに引退するほうが勝ち組らしいじゃないか――。良雄さんはそう確信し、清く会社を去ることを選びました。その揺るぎない決断を後押ししたのも、5,000万円という十分すぎるほどの貯蓄額でした。
退職して、のんびりとした生活が始まりました。聡子さんは週4日のパートを続けていて、何かと忙しそうにしています。
「仕事を辞めたら、夫婦でゆっくりできると思っていたが……」
良雄さん、思惑が外れ、少々もやもやした気持ちを抱えていたといいます。そんななか、夏季休暇で1週間ほどパートがないことがわかり、「夫婦でのんびり旅行にでもいかないか」と提案。さらに自身で思い描く、悠々自適なセカンドライフについて語りだしました。仕事を辞めてから、落ち着いて老後に向けての話をしたことがなかったため、良い機会だと思ったからだといいます。
「数ヵ月かけて、海外旅行に行くというのはどうだ?」
「いっそのこと、田舎に移住するというのもいいな」
しかし、隣で聞いていた聡子さんの表情はみるみるうちに曇っていきます。そして、良雄さんの言葉を遮るように言い放ちました。
「ねえ、あなた。それ、本気で言ってる? どこにそんなお金があるの?」
予想外の反応に、良雄さんはたじろぎます。「どうしたんだよ、急に。5,000万円もあるんだろ。十分じゃないか」。そう反論する夫に、聡子さんは堰を切ったように言葉を続けました。
「何が十分なの。この家は築30年経っているのよ。外壁の塗装や屋根、水回り……ボロボロじゃない。全部直したら数百万はかかるでしょうね。それに、お互いの親の介護は? 4人が施設に入るとなったらどうする? すべて親が払えると思う? 私たちが払う必要が出てくるかもしれないわ。一時金だけでいくらかかると思ってるの? 物価だってどんどん上がっているのに、その計算はどこに入っているのよ」
聡子さんが突きつける現実的な問いに、良雄さんは言葉に詰まります。やっと「……なんとかなるさ」と返すも、聡子さんは深くため息をつき、「もっと現実を見て」と一蹴されたといいます。