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データで知る「老後の貧困」
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](令和5年)』によると、60代の単身世帯のうち33.3%、70代では26.7%が「金融資産*1を保有していない」と回答。さらに「金融商品*2も保有していない」と回答したのは全世帯で4.9%。単身者の20人に1人は“その場しのぎ”というなかで暮らしています。
*1:定期性預金・普通預金等の区分にかかわらず、運用のため、または将来に備えて蓄えている部分。ただし、商・工業や農・林・漁業等の事業のために保有している金融資産や、土地・住宅・貴金属等の実物資産、現金、預貯金で日常的な出し入れ・引落しに備えている部分は除く
*2:「金融資産」に「預貯金で日常的な出し入れ・引落しに備えている部分」を加えたもの
また厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況』によると、全世帯の平均所得額は536.0万円に対し、子どものいる世帯は820.5万円。高齢者世帯は314.8万円。また1世帯当たり平均所得金額世帯主の年齢別に見ていくと、「50~59歳」が最多で750.0万円。「60~69歳」は612.1万円、「70歳以上」は373.6万円。年齢があがるにつれて、懐事情の厳しさは増していきます。また高齢者世帯の25.2%と、4世帯に1世帯が「生活が大変苦しい」と回答しています。このように見ていくと、林さんのように、「貯蓄ゼロ」という状況にある高齢者はそれほど珍しい存在ではないのかもしれません。
では、林さんのように、年金だけでは生活が立ち行かなくなった場合、私たちはどうすればいいのでしょうか。幸い、日本にはいくつかの公的なセーフティネットが存在します。
生活保護制度は、資産や能力などすべてを活用してもなお生活に困窮する国民に対し、国が「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための最後の砦です。また、予期せぬ病気やケガで高額な医療費がかかった場合には、高額療養費制度が役立ちます。これは、医療費の自己負担額がひと月の上限額を超えた場合に、その超えた金額が払い戻される制度で、家計の負担を大きく軽減してくれます。
林さんのように賃貸住宅に住んでいる場合は、住居確保給付金という制度も。これは、離職などにより住居を失うおそれのある人に対し、自治体が家賃相当額を支給する制度です。
林さんの場合、このような公的な支援は受けていないといいます。これらの制度の存在を伝えると、「何かあっても安心ね」と明るく答える林さん。「お金がなくて大変そうとか、可哀想とか思っているでしょ」と逆質問。
「お金がないのは確かに大変よ。でもね、くよくよしたって1円にもならないじゃない? ご近所さんと食べ物を分け合ったり、ほら、スーパーで売っている豆苗、あれを育てて何度も繰り返し食べたり。色々と工夫しながら生きていくのも楽しいものよ」
何ともたくましい笑顔は、お金だけが豊かさの指標ではないという、人生の真理を語っているかのようです。
[参考資料]
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](令和5年)』
厚生労働省『2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況』