(※写真はイメージです/PIXTA)
貯金ゼロの独居老人の現状
「80歳になった日の朝ね、銀行に記帳しに行ったの。そしたら見事にゼロ。思わず笑っちゃった」
この春、傘寿を迎えたばかりだという林美智子さん(80歳・仮名)。市営団地で一人、月9万円の年金暮らしを送っています。
若い頃は夫と二人三脚で小さな商店を切り盛りしていました。朝から晩まで働き詰め。2人の子どもを育てるのに必死で、自分の老後のことなど考える余裕は微塵もなかったといいます。
「当時は国民年金だったでしょう。まさか将来こんなに頼りない金額だなんて夢にも思わなかった。目の前のことで精一杯。でも、楽しかったのよ。お店にお客さんが来てくれて、子どもたちの笑い声が聞こえて。それが幸せだったから」
順調だった生活の歯車が狂い始めたのは、林さんが60代半ばの時。長年連れ添った夫が、病であっけなくこの世を去りました。店の経営も傾き、結局は畳むことに。借金を清算するために自宅も売却。現在住んでいる市営団地に越してきました。
「そこからよ、坂道を転がり落ちるみたいに、お金がどんどんなくなっていったのは」
子どもたちは遠方に嫁いでいるため頼ることはできません。生活のためにと始めたパート収入も微々たるものです。しばらくすると、林さん自身が病で入院。すぐに退院できたものの、それから何かと医療費がかさむようになったといいます。
「昔は、病院知らずだったのに、今は2、3日に1回は通うほどの仲よ。若いころは、こんなに親しくなるとは思わなかったわ」
そうして、コツコツと貯めてきた数百万円の貯蓄は、気づけば底をついていました。80歳の誕生日に手にした「残高ゼロ」の通帳は、彼女のこれまでの人生の厳しさを物語っています。
「今月も、病院代と薬代を払ったら、もうギリギリ。スーパーでは見切り品コーナー以外、興味がないわ」と自嘲気味に笑います。
現状を明るく話してくれるものの、ふと、言いようのない不安に襲われることもあるそうです。この先、大きな病気をしたら。介護が必要になったら。誰を頼ればいい――考え出すと、怖くて寝付けなくなる夜もあるとか。その言葉には、誰にも頼れない独居高齢者の切実な思いが滲んでいます。