年金月15万円。平均的な高齢者といえますが、歴史的な物価高のなか、平均でも生活は困窮し、下流老人へと転落してしまう状況に陥っています。厳しすぎる年金生活者の現実とは?
「年金月15万円」68歳男性、生活苦に悲鳴…インフレ日本で待ち受ける「普通の人」が「下流老人」と化す過酷な末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金「月15万円」は平均以上…それでも生活が立ち行かなくなる現実

立花さんの悲痛な叫びは、現代日本の高齢者が直面する厳しい現実を象徴しているといえます。

総務省統計局『消費者物価指数』をみていくと、2020年=100とした際、2025年7月は総合指数で111.9、生鮮食品を除く総合指数は111.6です。一方で、収入となる年金の受取額をみていくと、2020年度、老齢基礎年金の満額受給額は年78万1,692円。2025年度は83万1,696円でした。残念ながら物価高分を上回っておらず、実質、減額となっている状況です。収入が増えないなか、物価は上がり、支出は増えていく……家計が破綻するのも時間の問題です。

では、そもそも立花さんが受給している「月15万円」という年金額は、どの程度の水準なのでしょうか。厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)受給者の平均年金月額は、全体で約14.7万円。65歳以上の男性に限ると約16.9万円です。立花さんの受給額は男性の平均は下回るものの、極端に低いわけではなく、夫婦としてはまさに標準といえるでしょう。

それにもかかわらず、なぜ生活に困窮する――かつて標準的とされた老後の生活モデルが、現在の経済状況、特に急激なインフレに対応できなくなっているといえるのです。

「特に去年からコメの値段が上がって、大変ですよね。お金がなくて、1日1食という声もよく聞くし……それに比べたら、ちゃんと1日3食食べている“平均的な私たち”は、恵まれているほうなのでしょうか」

厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』によると、「生活が苦しい」と回答した高齢者世帯は55.8%。そのうち「大変苦しい」と回答したのは全体の25.2%。つまり4世帯に1世帯は、困窮しているという状況です。

「生活が苦しい」という声が、もはや社会の少数意見ではない現実。立花さんのように、かつて「平均的」あるいは「まだマシ」とされた年金生活者でさえ、日々の生活に困窮する。インフレの脅威を前に、真面目に生きてきた平均的な人々は容赦なく下流老人へと追いやられています。

自身の老後を守るために個人ができることは、「収入を増やし、支出を最適化し、資産を育てる」という、3つの行動に集約されます。

①長く健康に働く準備をする

年齢に関わらず働き続けられるよう、健康維持に努めることが大前提です。同時に、時代に合わせたスキルの学び直し(リスキリング)や、年齢を重ねても続けられる仕事の選択肢を若いうちから考えておくことが重要になります。

②お金にも働いてもらう(資産運用)

インフレ下では、銀行預金だけでは資産価値が目減りしてしまいます。2024年から新制度が始まったNISAや、税制優遇の大きいiDeCo(個人型確定拠出年金)などを活用し、少額からでも長期的な視点で資産運用を始めることが、自分の生活を守る上で不可欠です。

③支出を根本から見直す

日々の節約だけでなく、通信費や保険料といった固定費を定期的に見直すことが効果的です。これにより生まれた余剰資金を資産運用に回すことで、将来への備えをより強固なものにできます。

特に資産運用は、時間を味方につけるのがセオリーです。この厳しい現実は、私たち現役世代が「今すぐ行動すべき」という未来からの警告と言えるでしょう。

[参考資料]

総務省統計局『消費者物価指数』

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』

厚生労働省『令和6年 国民生活基礎調査』