年を重ねるごとに子どもから心配されるようになる親。意識のなかでは親にとっては子どもは子どもであっても、いつの間にか立場は逆転しているものです。しかし、どんなに頼もしく成長した子どもでも、窮地を救ってくれるのは親しかいないと、泣き顔を見せることも。ある親子のケースをみていきます。
母さん、助けて…〈年収1,000万円超〉の52歳息子。ある夜、〈年金月10万円〉の78歳母に泣きついたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

忍び寄る「自分への投資」という名の罠

大輔さんのように、真面目にキャリアを積んできたはずの中高年が、突然、高額な自己啓発や副業を謳うサービスにのめり込み、多重債務に陥ってしまう――。国民生活センターによると、全国の消費生活センター等には、「スマホで簡単にもうかる」「不労所得で豊かに生活ができる」とお金もうけのノウハウを伝える等と勧誘され、情報商材やノウハウを教わるサポートの契約をしてトラブルになったという相談が多く寄せられているといいます。

 

【相談事例】

・SNSでDMが届き、情報商材の内容をオンラインサロンで勉強できると勧誘された

・オンラインサロンを人に紹介すると報酬がもらえると言われた

・オンラインサロン経営のセミナーで、さらに高額なセミナーの勧誘を受けた

・オンラインサロン経営の副業を契約したが、書面を交付されなかった

・オンラインサロンを解約したいが、住所や電話番号等がわからない

 

このような勧誘の末、多重債務に陥る中高年――その背景にあるのは、大輔さんも直面した「中年の危機(ミッドライフクライシス)」と、社会構造の変化です。終身雇用制度が崩壊し、役職定年などで会社内での立場が変化する50代は、自身のアイデンティティが揺らぎやすい年齢といえます。そこに「新しいスキルを身につけて市場価値を上げる」「副業で収入の柱を増やす」といった甘い言葉が響くと、「自分への投資」という名目で高額な出費を正当化しやすくなります。

 

特に近年、SNSを介した手口が急増。SNS上の広告やインフルエンサーを通じて、「簡単に儲かる」「あなたも成功できる」といったメッセージを発信。オンラインサロンや情報商材へ誘導し、閉鎖的なコミュニティのなかで「仲間意識」や「限定感」を煽り、正常な判断力を奪っていく……最初は数万円だったはずが、より高額なプランやコンサルティング契約を次々と勧められ、気づいた時には数百万円の借金を抱えていた、というケースも珍しくないのです。

 

家族や周囲が気づくべき「危険な兆候」として、「特定の人物やコミュニティを過度に信奉し、批判的な意見に耳を貸さなくなる」、「自己投資、セミナー、コンサルといった言葉を多用し、出費が増えている」などが挙げられます。

 

もし、身近な人にこのような兆候が見られた場合、頭ごなしに否定するのは逆効果。まずは本人の話に耳を傾け、不安な気持ちに寄り添うことが重要です。そのうえで、客観的な事実や公的なデータを元に、置かれている状況の危険性を冷静に伝える努力が求められます。

 

[参考資料]

独立行政法人国民生活センター『新たなもうけ話トラブルに注意 ―オンラインサロンで稼ぐ!?―』