年を重ねるごとに子どもから心配されるようになる親。意識のなかでは親にとっては子どもは子どもであっても、いつの間にか立場は逆転しているものです。しかし、どんなに頼もしく成長した子どもでも、窮地を救ってくれるのは親しかいないと、泣き顔を見せることも。ある親子のケースをみていきます。
母さん、助けて…〈年収1,000万円超〉の52歳息子。ある夜、〈年金月10万円〉の78歳母に泣きついたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

あの子は、昔から自慢の息子でした…

「まさか……真面目だけが取り柄のような子でしたから」

 

里田千代子さん(78歳・仮名)。あの子というのは、ひとり息子である大輔さん(52歳・仮名)のこと。

 

都内の有名大学を卒業後、誰もが知る大手企業に就職。年収は1000万円を超え、順風満帆なサラリーマン人生を歩んでいました。早くに夫を亡くした千代子さんにとって、大輔さんは何よりの誇りだったのです。仕事一筋で50歳まで独身を貫いていましたが、堅実な収入があり、老後の心配もない。たまに実家に顔を見せては、優しい言葉と「年金月10万円だと大変だろ。少しだけど……」とお金を置いていってくれる。そんな自慢の息子が、なぜ――変化の兆しは、大輔さんが50歳を超えたあたりから少しずつ表れてきたといいます。

 

「最近、会社での立場が……と弱音を吐くことがありました。若い人の考え方についていけない、これからのキャリアが不安だ、と。長年勤め上げた会社ですが、居心地の悪さを感じていたようです」

 

大輔さんが勤める会社では、50代前半に役職定年があり、その後は定年までは消化試合……そんな人事制度も影響していたのではないかと千代子さん。キャリアの岐路に立たされるなか、大輔さんも漠然とした将来の不安に駆られていたのです。「このままではいけない。何か自分を変えなければ」。その焦りが、運命を大きく狂わせることになります。

 

ある日、大輔さんは目を輝かせながら千代子さんにこう語ったといいます。

 

「すごい人に出会ったんだ。SNSで知ったオンラインサロンなんだけど、主催者の考え方が素晴らしくて。ここなら自分も変われる気がする」

 

その日から、大輔さんの生活はオンラインサロン中心に回り始めます。週末はセミナーや勉強会に参加し、平日の夜もオンラインでの交流会に時間を費やす。サロンの仲間との一体感、そしてカリスマ的な主催者からかけられる「里田さんならできる」といった賞賛の言葉が、会社で失いかけていた自尊心と承認欲求を満たしていきます。

 

「仲間との出会いはプライスレス」、「これは未来の自分への投資」などといいながら、起業や副業を目指すための高額なセミナーや教材の話を嬉しそうにする大輔さん。

 

「少し高すぎるのではと心配したのですが、『お母さんにはわからないよ』と聞き耳を持たなかったんです」

 

大輔さんの金銭感覚は麻痺していき、ついに返済が滞り始めたある夜。インターホンが鳴りドアを開けると、そこには変わり果てた大輔さんの姿がありました。「母さん、助けてくれ……」。生気を失った目で立ち尽くす大輔さんの手には、複数の金融機関の名前が並んだ明細書が。「仲間との出会いはプライスレス」と言っていた息子の借金は、いつの間にか500万円に膨れ上がっていました。