(※写真はイメージです/PIXTA)
変わり果てた母を前に、こぼれ落ちた涙
「もしもし、田中さんのお宅でしょうか。しばらくお母様のお姿が見えないので、一度様子を見に来ていただけませんか」
民生委員からの電話に、田中博さん(66歳・仮名)の胸はざわつきました。都内のアパートで月7万円の年金と月8万円ほどのアルバイト代で暮らす田中さん。自身の生活で精一杯で、同じ都内に住む母・はなさん(90歳・仮名)の自宅を訪ねるのは数カ月ぶりでした。
合鍵でドアを開けると、そこには信じがたい光景が広がっていました。変わり果てた姿で横たわる母。孤独死でした。警察の現場検証が終わり、ようやく落ち着きを取り戻したのも束の間、田中さんの前に「葬儀」という現実が立ちはだかります。
「息子は自分ひとり。自分が何とかしなければ」。悲しみに暮れる暇もなく、近所の葬儀社に連絡を取りました。担当者は、親身に話を聞いてくれたあと、見積書を差し出しました。
「本当に最低限で、火葬だけを行う『直葬』というプランになりますが、それでも25万円ほどは……」
その金額に、田中さんは言葉を失いました。自身の年金暮らしでは貯蓄などほとんどなく、手元にあるのは次の年金支給日までの生活費がやっと。数十万円という金額は、あまりにも重いものでした。
「母親なんです。せめて、人並みに送ってやりたい。でも……お金がないんです」
担当者にそう絞り出すのがやっとでした。「母さん、ごめん……ごめんな」。情けなさと母への申し訳なさで、涙が止まりません。親の死は、子の経済状況という現実を容赦なく突きつけます。
どうすれば、母を弔うことができるのか。途方に暮れた田中さんは、すがるような思いで、母が暮らした区の区役所の窓口へと向かいました。そこで彼は、これまでまったく知らなかった「葬送の選択肢」と向き合うことになります。