老後の生活への漠然とした不安、インフレでお金の価値が目減りしていくことへの恐怖……真面目な人ほど抱える切実な思いが、時として判断を鈍らせ、取り返しのつかない事態を招いてしまうことも。短期間で大きな損失を抱えた、ある男性のケースです。
「愚かでした。」68歳元公務員、3ヵ月で〈退職金1,100万円〉が泡と消える…証券マンの「絶対に大丈夫」という言葉を信じた末路 (※写真はイメージです/PIXTA)

「リスクは限定的」「絶対大丈夫」は要注意。資産を守るための3つの鉄則

鈴木さんのような悲劇は、残念ながら決して他人事ではありません。証券・金融商品あっせん相談センターが公表している『紛争解決手続事例 2025年4月~6月』をみていくと、誤った情報の提供や説明義務違反などによる紛争事例が多いことがわかります。

 

●担当者から勧められて投資信託を購入した際、商品性やリスクについて十分な説明がなかった。また、本件投資信託に要した手数料についても、説明を受けなかった(60代後半)

●「元本が減ることはない」、「間違いなく儲かる」と言われたことを信用して投資信託を購入したが損失を被った後、その挽回策として「絶対にいける」と言われて株式を購入したが、さらに損失が拡大してしまった(70代前半・男性)

●「絶対にいける」と言われて株式を購入したが、損失を被った(70代前半・女性)

 

金融商品取引法では、「必ず儲かる」「絶対に大丈夫」といった断定的な表現を用いて投資勧誘を行うこと(断定的判断の提供)を禁止しています。今回の「1年後には世界一周旅行も夢ではない」といった表現も、顧客に過度な期待を抱かせ、正常な判断を妨げる可能性があり、不適切な勧誘と見なされる場合があります。「リスクは低い」「限定的」といった言葉で安全性を強調しすぎるセールストークにも注意が必要です。

 

金融機関には、顧客の知識や経験、財産状況、そして投資の目的に合った商品を勧めなければならないという「適合性の原則」が課せられています。「元本割れを避けたい」「安全性を重視する」と明確に伝えていた鈴木さんに対し、たとえ分散投資されていても、特定のテーマに集中するハイリスクな投資信託を、そのリスクを十分に説明せずに勧めた行為は、この適合性の原則に反している疑いがあります。

 

鈴木さんのような失敗を繰り返さないために、「うまい話はまず疑う」、「リスクについて具体的に質問する」、「記録を残す」と、3つの鉄則を心に留めておきたいもの。

 

また鈴木さんのように実際にトラブルに遭ってしまった場合でも、泣き寝入りする必要はありません。金融庁に設置されている「金融サービス利用者相談室」や、中立・公正な立場から裁判外での紛争解決を目指す「金融ADR制度」といった公的な相談窓口があります。

 

そして老後のための大切な資産は、誰かに任せきりにするのではなく、最終的には自分で守るという意識が不可欠です。甘い言葉に惑わされず、正しい知識を身につけて、慎重な資産運用を心がけましょう。

 

[参考資料]

生命保険文化センター『2022年度 生活保障に関する調査』

証券・金融商品あっせん相談センター『紛争解決手続事例 2025年4月~6月』