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管理型になりやすい認知症の介護…できることに目を向けてみる
恵子さんのように、在宅介護の現場で強いストレスや悩みを抱える人は決して少なくありません。
厚生労働省によると、2025年には65歳以上の高齢者のうち約5人に1人にあたる約700万人が認知症になると推計されており、介護は多くの家庭にとって身近な課題となっています。また、厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、主な介護者の悩みやストレスの原因として「家族の病気や介護」を挙げた人の割合は約8割でした。つまり、恵子さんのように不安などから、介護が「管理型」になってしまうケースは、増えていくと考えられます。
そうなってしまう背景には介護者の「安全を守らなければ」という強い責任感と、万が一の事態への不安があります。特に認知症介護の場合、徘徊や事故のリスクが常に付きまとうため、本人の行動を制限することで不安を解消しようとする心理が働きやすいといわれています。
しかし、過度な管理は本人の自尊心を傷つけ、生きる意欲さえも奪いかねません。失われた能力ではなく、その人に残された『できること』に目を向け、その人らしさを尊重すること。それが認知症において、介護される側と介護する側、長い介護生活を乗り越えるための鍵といえるかもしれません。
恵子さんは、家を飛び出した聡子さんを近所の公園で発見したといいます。「ごめんね……ごめんね……」と嗚咽が漏れたといいます。この夜を境に、恵子さんは介護のあり方を見直しました。まずは地域包括支援センターに相談し、ケアマネジャーと共に介護プランを再検討。デイサービスの利用日数を増やし、聡子さんが他者と交流する機会を確保しました。それは、恵子さん自身が心身を休める「レスパイト(休息)」の時間にもつながりました。
「今では、母の『やりたい』という気持ちを尊重するようにしています。たとえば、私が隣で見守りながらですが、昔得意だった煮物を作ってもらったり、好きだった編み物を再開したり。もちろん危険がないようにサポートは必要ですが、『できない』と決めつけて全てを取り上げることはやめました。『自分でできる』という小さな自信が、母の笑顔を少しずつ取り戻してくれたことが、何よりの救いです」
[参考資料]
厚生労働省『認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)』
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』