(※写真はイメージです/PIXTA)
「うちは揉めない」は危険な兆候。財産の額にかかわらず火種は燻る
「まさか、うちの家族がこんなことになるなんて……」
田中一郎さん(50歳・仮名)です。数ヵ月前、父・勝さん(享年82歳・仮名)を病気で亡くしました。実家の近くに居を構える一郎さんは、会社勤めの傍ら、病気がちだった正雄さんのもとに通い、身の回りの世話から通院の付き添いまで、一人で担ってきました。
遠方に嫁いだ妹の友子さん(47歳・仮名)が実家に顔を見せるのは、盆と正月など数回。それでも、父の葬儀は兄妹でしめやかに執り行い、滞りなく終えることができました。
「親父も、俺たち兄妹が仲良くしているのを見て安心しているよ」
二人は葬儀後の控え室でそう笑い合ったといいます。このあと、やらなければいけないのは遺産分割。父が遺したのはわずかな預貯金と、査定額2,000万円ほどの実家。一郎さんは「こんなんで、揉めるはずがない」と考えていました。父との思い出が詰まった何にも代えがたい実家は、当然、自分がこのまま実家を守っていくものだと……しかし、遺産分割の話し合いが始まると、友子さんから想像もしない提案があったといいます。
「お兄ちゃん、遺産は法律通り、きっちり半分に分けよう。そのほうが、お互いにモヤモヤが残らないから」
実家を売却して現金化し、預貯金と合わせて二等分する――あまりに突然の提案に、一郎さんは耳を疑います。
「何を言っているんだ。俺がずっと親父の面倒を見てきたんだぞ。お前はほとんど顔も見せなかったじゃないか」
感情的になる一郎さんに対し、友子さんは冷静に言い放ちます。
「それを盾にお金が欲しいってこと? 結局、お兄ちゃんもお金目当てだったのね」
この一言が、一郎さんの心の内に溜め込んでいた不満を爆発させる引き金となりました。
相続を巡る争いは、決して資産家だけの問題ではありません。裁判所『令和4年 司法統計』によると、全国の家庭裁判所で扱われた遺産分割事件のうち、争いの対象となった遺産の価額が「5,000万円以下」のケースは、全体の76.5%を占めています。
「うちには大した財産はないから大丈夫」
そのような考えが、いかに的外れか。むしろ、預貯金が少なく、遺産の中心が「実家」などの分けにくい不動産であるほど、分割方法を巡って争いに発展しやすい傾向があるのです。