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高齢者が買い物依存に陥る理由
買い物依存は決して高齢者だけの問題ではありません。年齢に関係なく、不必要なものを買い続けることに執着し、お金を減らしてしまう一種の精神疾患です。スニーカーを数百足も買い続ける男性、一定金額以上の買い物で送料が無料になるからと不要な服を買い続ける女性、自動車を半年で乗り換えようとする男性など、これらは物欲とは呼べない病的な状態です。
なぜ、不要とわかっていながらも次々と買ってしまうのか。その答えは、「孤独」と「社会的孤立」にあります。
高齢になるにつれ、多くの人は配偶者との死別を経験し、退職による社会的役割を失い、身体能力は低下し、生活範囲は狭まります。底が深い井戸のような喪失感が重くのしかかり、自己肯定感を損なうのです。子どもとは物理的・心理的に距離ができる。近隣住民や友人との交流にも気後れし、何日も誰とも会話せずに過ごす日が増えていきます。
その心の隙間に入り込むのが「買い物の高揚感」です。
一日中テレビをみている高齢者にとって、スタジオから投げかけられる明るい声は、自分に向けられた呼びかけのように響きます。電話をかければ、オペレーターが親切丁寧に対応してくれる。数分間のやりとりのあいだだけは、確かに人とつながっている感覚を味わえる。買い物をしたという体験が一瞬の自己肯定感に繋がってしまうのです。
しかしやがて、「支出」が「依存」へと変質し、生活資金は容赦なく食い潰されていきます。
本来必要なかった高額な仕送り
ではAさんはどのように対処すべきなのでしょうか。
FPが母親の買い物依存の原因として指摘したのは、「親子の関係性の希薄さ」でした。テレビをみつづけることでマーケティングされてしまうことも原因ですが、それはテレビをみなければ避けられる簡単な問題です。それよりも問題なのは、Aさんが母親を疎遠にしたこと、そしてその罪悪感から高額な仕送りを続けたことのほうです。
子供2人と夫を同時に亡くすという経験をした母親が、幼いころのAさんに強く依存したのは想像に難くありません。母親はAさんを育てるために仕事に追われ、自分の過去を癒すことができず、かといって息子のAさんは早く家を出ていこうとするばかり。進学後はどんどん疎遠になり、会話はほとんどなく、なぜか仕送りはしてくれるが、実のところ母親にとってお金はそれほど必要でもなかった……。欲しかったのは、息子との繋がりだったのかもしれません。
「1人で自分を育ててくれたので、本来、母親はお金を節約して生きてきたと思います。無駄なものを買う人ではなかった」とAさん。FPのアドバイスどおり、Aさんは母親に電話をかけて提案してみました。
「もし嫌でなければ、俺のマンションに引っ越してこないか? スーパーも近いし、いい病院もたくさんあるよ。もし都会が嫌でなければだけど……。俺も独身だし母さんがいたほうが寂しくなくていいよ。ご飯も作ってほしいな」
すると母親は少し悩むようなそぶりをみせましたが、翌日には引っ越してもいい旨を伝えてきました。本当は即答するほどうれしかったのかもしれません。
それから、母親は都会暮らしに少し戸惑いがあったものの、テレビをみても通販で買い物をすることは皆無になり、むしろ視聴時間は減っています。以前通販で加入した生命保険もすべて解約し、自宅に溢れていた段ボール箱の商品も売却したり捨てたりしました。母親に毎月生活費を渡してやりくりをしてもらうようにしましたが、本来の母親のとおり、そのなかで節約をしてまた少しお金を貯めているようです。中古で購入した自宅は、大損しましたがなんとか買い手がつき安心しました。中古住宅なんて買わず、最初から母親を呼び寄せればよかったのかもしれないと、Aさんは自分の罪悪感をごまかすような買い物を少し後悔しています。
「買い物依存の高齢の母親を認知症と決めつけてしまっていたら、いまごろもっと可哀想なことをすることになったな」そう思ったそうです。
長岡理知
長岡FP事務所
代表