(※画像はイメージです/PIXTA)
お金が足りない理由
玄関から廊下、リビング、そして空き部屋に至るまで、山積みにされた段ボールが視界を覆い尽くしていたのです。積み上がる箱のほとんどに書かれた送り主は、大手テレビショッピング会社、そして名の知れた通販企業。中身のほとんどは未開封のまま。しかも開けた箱を除けば、健康機器、美容ローラー、調理家電、膝サポーター、膝にいいと謳われるサプリメント。同じ商品がいくつも重複しているものまでありました。
さらには通信販売の生命保険に入ったのか、保険証券や手続き書類が入った封筒があります。しかも保険会社は4社にもおよんでいました。
「テレビCMをみて保険の問い合わせをしたら、保険屋さんが訪ねて来てね。いい人だったからいろんな保険にも入っちゃった」と母親。月の掛け金は4万円にもおよびます。
「どうするのこれ……」Aさんは言葉になりません。
段ボールや封書の山を押しのけて座る場所を作りました。母親が料理を作ってくれて食べたのですが、その味だけは昔と変わりません。
どうやら母親はテレビを一日中見ていて、ショッピング番組や保険会社のCMを見続けているようなのです。「認知機能が衰えた老人をターゲットにした通販番組や保険のCMなんて、まともな企業がやることじゃない」とAさんは憤りましたが、当然ながら通信販売は違法ではありません。高齢者をマーケティングする手法が先鋭化されているだけです。しかしながら、テレビばかりみている認知機能が衰えた高齢者に情報を浴びせ続けたら、簡単に買い物依存を発症してしまうのではないか。
その夜、段ボール箱の山の中に敷かれた布団の中で、Aさんはふと気が付きました。きっと母親の孤独は自分が考えているよりも深く、そして病的なのかもしれない。息子が仕送りするお金を使い果たすまで買い物をしても埋まらない孤独があるのだろう。
もう買うなといっても、買い物が止まるわけがないな……とAさんは考えました。Aさんは母親に特に注意することもなく、買っても開封していないもの、開封しても放置しているもののいくつかを東京の自宅に持って帰ることにしました。フリマアプリで激安で売り払えばいいだろうと考えたのです。
問題は、母親の買い物依存をどうやって治すかです。そこで知人のFPに相談してみることにしました。