遠く離れた実家で暮らす親が、どんな生活をしているのか……。子供世代はふと想像することがあります。特に地方出身者は高校卒業と同時に上京している人が多いため、自分が大人になっても親の姿は18歳のときのまま止まっているのかもしれません。本記事ではAさんの事例とともに、離れて暮らす高齢親の老いについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
年金と仕送りで「生活費月30万円」田舎の79歳母が、なぜか「金欠」に…東京から帰省した月収150万円の48歳息子、絶句。実家を埋め尽くす“ナゾの段ボール”の山、山、山…【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

高齢者が通販にはまってしまう背景

FPがいうには、Aさんの母親のように通販での買い物依存に陥っている高齢者は少なくないとのこと。独立行政法人・国民生活センターには、全国から高齢者に関する消費相談が殺到しているようです。その件数はここ10年以上も高い水準で推移。特に通販に関連する苦情は、その大部分を占めています。

 

「お試し価格」に惹かれて電話をした。

「もっと効果のある商品がある」とアップセル(高額追加商品)を勧められ、断りきれず購入。

「一度きり」のつもりで申し込んだはずが、知らぬ間に定期購入の契約になっていた。

解約を試みても、電話が繋がらない、受付時間を過ぎる、担当者に回される……結局やめられない。

 

国民生活センターに寄せられている苦情をみると、Aさんの母親も決して買い物依存だけが原因ともいいきれません。内閣府の調査(2021年)では、60歳以上の約3割が「月に1度以上通販を利用」と回答。さらにテレビショッピング経験者の約7割が「必要ないのについ買ってしまった経験がある」と答えています。

 

総務省「家計調査報告」によれば、65歳以上の世帯は日本全体の消費支出の中で極めて大きな割合を占めています。ほかの世代に比べて明らかに金融資産が豊富で、社会的に孤立している消費者が高齢者なのです。マーケティングの観点からすれば、ここを狙わずに売り上げを目指すことはナンセンスともいえるほど、巨大なマーケットといえるでしょう。

 

2024年のNTTドコモモバイル社会研究所の調査によると、60代〜70代の8割以上が、ほぼ毎日テレビを視聴していて、特に70代の7割以上は、1日に2時間以上テレビを視聴しているという結果でした。企業がテレビ広告を打つには、高齢者は格好のターゲットです。高齢者がテレビをみつづけていると高確率で買い物の欲求を刺激する情報を目にするのは偶然ではありません。

 

高齢者がテレビの画面に映されたフリーダイヤルに電話すると、アップセル(追加販売)、クロスセル(関連商品販売)、そして定期購入契約へと繋がっていきます。購入した人は企業によってリスト化され、さらにダイレクトメールやテレマーケティングに活用されていきます。

 

保険会社の通販CMでは、電話することで近隣の保険代理店の営業員が直接訪問してきて、やはりアップセル、クロスセルを試みることがあります。月掛け数千円の保険に入りたかったはずが、なぜか「老後のため」と勧められ高額な積立保険にも加入してしまう人はめずらしくありません。そして保険会社と保険代理店で見込み客の紹介の謝礼が交わされるというビジネスモデルです。保険会社の場合は高齢者への販売ルールが厳格化されていますが、実際のところ「複数回の面談をすれば家族同席は不要」という抜け道を用意している保険会社、保険代理店も存在します。

 

これらは企業にとって「客単価を最大化する洗練されたビジネスモデル」に過ぎず、当然違法性もありません。しかし高齢者の家族にとっては、油断すればがっちりと売り込まれてしまうのは恐怖でしかないように思えます。