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人事部長の一言でサラリーマン人生が一変
都内の中堅メーカーで営業課長を務めていた鈴木誠さん(55歳・仮名)。大学卒業以来、この会社一筋30年以上、がむしゃらに働いてきたという自負があります。10年ほど前に課長の辞令を受けたときは、これまでの努力が報われたと心から喜んだといいます。
「部下をまとめ、チームで目標を達成することに大きなやりがいを感じていました。現在の月収は60万円ほど。これまで頑張ってきたからこそ、2人の子どもを大学まで行かせ、念願だったマイホームも手に入れることができた。自分なりに誇れることだと思っています」
しかし、順風満帆だと思われた会社人生は、突如として終焉を迎えます。人事部長との面談で「役職定年」の話になったのです。
「『来月で課長職を解くことになる。これから1カ月は新課長への引継ぎをお願いします。長年、ご苦労様でした』と、淡々と告げられました。もちろん制度の存在は知っていましたし、数年前に尊敬していた先輩が同じように役職を離れ、どこか寂しそうにしていた姿も思い出します。明日は我が身とは思いつつも、目の前の仕事に追われるうちに、それはまだ遠い未来の話だと無意識に蓋をしていたんですよね」
役職を解かれるだけではありません。給与も大幅にダウンします。これまで支給されていた役職手当などがなくなり、年収にして約300万円もの減収となるのです。長年の会社への貢献が、給与や役職という「記号」だけで測られ、あっさりとリセットされてしまうのか。理屈では分かっていても、いざ現実として突きつけられると、会社から「君の価値はもうここまでだ」と烙印を押されたような屈辱感がこみ上げました。
翌日から、鈴木さんを取り巻く環境は一変します。新しい課長として着任するのは、かつて手取り足取り仕事を教えた、15歳も年下の社員でした。
「元部下は気を遣って『鈴木さん』と丁寧に接してくれましたが、それがかえって惨めな気持ちにさせました。昨日まで私の指示を仰いでいた彼が、これからは私の上司になる。周りの社員たちの、腫れ物に触るような視線がプライドを深く傷つけました」
心身ともに疲れ果てて帰宅したその夜、鈴木さんは妻に事実を打ち明けました。すると、食卓の向こうで、妻は心配そうな顔でこう呟いたのです。
「そう、大変だったわね……。私のパート、もっと時間を増やさないとダメかしら」