まず考えるべきは「収益性リスク」

不動産投資のリスクは、物理的リスクと収益性リスクに大別できます。特に重要なのが収益性リスクです。多くは借入れで物件を調達するため、家賃収入でローンを返済できなくなる事態は避けねばなりません。
したがって、投資家が第一に見るべきは、「安定的な家賃収入が見込めるか」と、「家賃収入に対して返済額がどれくらいの割合か」という点です。両者の間にどれだけ余裕があるかが極めて重要になります。
たとえば、サブリース契約は空室リスクを回避できますが、新たなリスクも生まれます。それは「クレジットリスク」、すなわち家賃を支払うと約束した会社が、本当にその支払い能力を持ち続けているのかという点です。契約相手が信頼に足る企業かを見極める必要があります。不動産会社は、経済変動で案外あっけなく倒産することも少なくないからです。
また、金利の上昇リスクも見過ごせません。金利が上がれば返済額は増えます。どの程度の金利上昇までなら家賃収入でカバーできるのか、常にシミュレーションしておくべきでしょう。
一方で、建物の施工不良や災害といった物理的なリスクは、専門家でなければ見抜くのは困難です。万が一の際に、どのような保証があり、保険でどこまでカバーできるのかを事前に確認しておくことが大切です。
自分ごととして体感できるのが、不動産投資の醍醐味

私自身も様々な物件を所有していますが、不動産投資が金融投資と大きく違うのは、「現物資産」が持てる点です。それゆえに、物件にまつわるストーリーを「自分ごと」として深く体感できる面白さがあります。
たとえば、10年ほど前に購入した70台収容の立体駐車場。実は、大学生の頃に時給800円で駐車場のアルバイトをしていた経験があり、当時お金がなかった自分がこれだけ大きな駐車場を持つのかと思うと、勝手に感慨深くなってしまいました。
購入の決め手は、仲介の方の「木本さん、車は暑いだの寒いだの文句を言いませんよ」という一言でした。住宅と違い、入居者対応がない気楽さ。この言い回しが面白く、過去の思い出と重なって購入を決意しました。
この物件は、もともと外資系投資会社が所有していましたが、管理が行き届いておらず、月極料金に大きなバラつきがありました。そこで専門の管理会社と連携し、料金の適正化を進めました。住宅と違い、駐車場は契約改定が比較的容易なため、地道な作業でキャッシュフローを大きく改善できたのです。
利益だけではない。感情が乗るからこそ面白い

最終的に、この駐車場はガソリンスタンドを運営する大手企業に売却しました。その企業は事業の多角化を模索しており、車に関連する不動産として駐車場に興味を持たれたようでした。
実は、私の母方の姓が会社名に入っていたこともあって、これも何かの「ご縁」だなと感じ、良い条件だったこともあり、お譲りすることにしました。
このように、投資である以上、採算性や分析的な視点は不可欠ですが、入口から出口まで自分の感情や想いを乗せられるのが、不動産投資の最大の魅力ではないでしょうか。ちなみにこの物件は、2億6,000万円で購入し、4億5,000万円で売却しました。その間の家賃収入も毎年2,000万円ほどありましたが、それでも売却した時は寂しい気持ちの方が強かったです。
最良の物件選びと運用を叶える「信頼できるパートナー」

不動産はすべてが一点物です。だからこそ、多くの人が物件選びでジレンマに陥ります。賢い人ほど「なぜ誰も買わないこの物件を自分が買うべきか」というスパイラルに陥り、決断できなくなってしまいます。
だからこそ最終的に意思決定を支えるのが、「この人なら信頼できる」「この会社はしっかりしている」という人間関係なのです。決して安くない仲介手数料も、取引の安全や安心、すなわち「信頼」を担保するためのコストと理解されているからこそ、今も受け入れられているのでしょう。
この「信頼関係」は、購入後の管理・運用においても同様に重要です。たとえば、空室が出た際に、少し手間をかければ今より高い家賃で貸せる可能性があるとします。しかし、家賃が数千円上がっても管理会社の収入増は数十円程度です。そのわずかな利益のために、すべての管理会社が最大限の努力をしてくれるとは限りません。ここでも、オーナーとの信頼関係が、管理の質を大きく左右するのです。
成功するオーナーに共通する「長期的視点」

最後に、日々現場でオーナー様と接している私たちの社員が共通して感じていることなのですが、賃貸経営を上手にされているオーナー様には明確な特徴があります。
それは、目先のキャッシュフローだけにとらわれず、長期的な視点で資産価値を高めようとする姿勢です。
一例として、成功するオーナー様のなかには、入居者が退去した際に『数ヵ月かかってもいいから室内をリノベーションして、物件の価値を上げてほしい』と考える方もいらっしゃいます。
それによって家賃が2〜3万円上がるのであれば、その期間と費用を未来への「投資」と捉えることができるのです。
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株式会社アーキテクト・ディベロッパー
代表取締役社長 木本 啓紀
ゴールドマン・サックス証券株式会社アジア・スペシャル・シチュエーションズ・グループに18年間在籍。ローン債権、債券、不動産、エクイティ、証券化商品、オルタナティブなどあらゆるプロダクトを対象とした投資業務を経験。その後、ソフトバンクグループ株式会社に転じ引き続き投資業務に従事。2019年9月 当社取締役に就任。その後、ソフトバンクグループを退職し、2021年9月 代表取締役CEOを経て、2025年7月代表取締役社長に就任、現在に至る。

