「ボロボロの物件をDIYで再生し、高利回りを実現する」。そんな不動産投資のサクセスストーリーが注目を集める一方、その裏で失われる「時間」という最も貴重な資産について語られることは少ない。果たして、不動産投資は本当に「手間」をかけるべきなのか──。不動産開発の現場を熟知する株式会社アーキテクト・ディベロッパー代表取締役社長・木本啓紀氏は、その一般的な考え方にこそリスクが潜んでいると語ります。今回は、多くの投資家が見落としがちな「時間とリターンの最適バランス」という視点から、物件購入後の最適な管理・運用術について解説していきます。

不動産の管理はプロに任せるべき?

最近、YouTubeやTikTokなどを見ていると、「管理会社に任せず、自分で物件に手を入れて運用した方がいい」という趣旨の動画をよく見かけます。

 

たとえば、「1,000万円で非常に古いボロボロの物件を購入し、自分でDIYを施して再生させる。その結果、月20万円、年間240万円の家賃収入が生まれ、利回りは24%に達します。だから、大手のアパート会社から物件を買うのはナンセンス。自分でやれば美味しい話は転がっています」といった内容です。見ていて面白いですし、魅力的に感じる方も多いと思います。

 

こうしたアプローチを、私は一概に否定するつもりはありません。しかし、「その方法が、本当に自分にとって効率的なのか?」という点は、一度立ち止まって考えてみる必要があると感じています。

 

DIYで物件を磨き上げる手法は、確かに高い利回りを生む可能性があります。ですが、それだけでは事業の「スケール」、つまり規模の拡大は望めません。なぜなら、そこには自分自身の「時間」という、非常に大きなコストが投下されているからです。

 

不動産投資を行う目的は人それぞれですが、多くの方は資産を効率的に増やし、経済的な安定や自由を得ることを目指しているはずです。その目的を達成するためには、投下する資金だけでなく、時間というコストに対してもシビアな視点を持つことが不可欠なのです。

不動産の管理を「自分でやるか/プロに任せるか」のラインは?

DIYで高利回りを狙う手法の対極にあるのが、金融商品を扱うような考え方で不動産投資を行うスタイルです。

 

具体的な例を挙げてみましょう。仮に、1億円の新築アパートを、9,000万円のローンを組んで自己資金1,000万円で購入したとします。利回りが5.5%だとすると、年間の家賃収入は550万円です。ローンの金利が2%だとすれば、年間の支払金利は約180万円。元本の返済もありますが、単純なリターンで考えると、差額の370万円が手元に残ることになります。

 

これは、自分が入れた自己資金1,000万円に対して、年間370万円の価値が生まれていることを意味します。しかも、新築物件ですから、当面は修繕などの手間はほとんどかからず、基本的に自分自身が何かをする必要はありません。

 

一方で、1,000万円の古い物件を購入し、コンセプトを練り、DIYでリフォームしていくスタイルも、現実的に可能でしょう。しかし、そこには自分自身の時間と労力、つまり人的なコストが大きくかかってきます。

 

ここで重要になるのが、「バランス」です。

 

●同じ1,000万円を投下するにしても、自分の時間も投下し、高い利回りを目指すが、他のこと(本業やプライベート)に使える時間は減る。

●レバレッジ(融資)を効かせ、自分の時間はまったく使わずに、手間なく安定したリターンを得る。

 

このどちらのスタイルを選択するのか、あるいはどのように組み合わせるのか。ここが、不動産投資における重要な判断の分かれ道となります。

 

もし、決して余裕があるわけではない自己資金1,000万円のすべてを古い物件の購入に充て、さらに自分の時間もフルに投下してしまったら、他のことは何もできなくなってしまいます。

 

前回(関連記事:『投資疲れの正体、「メンタルコスト」とは?金融のプロが明かす「心を消耗しない資産形成術」』)もお話しした「投資のメンタリティ」にも通じますが、自分が考える時間や、実際に動く時間というのは、自分自身の非常に大きな、そして貴重な「コスト」です。その貴重なコストを投下するべき案件なのかどうかを、冷静に見極めなければなりません。

 

趣味として不動産運用を楽しむのであれば、DIYに没頭するのも素晴らしいことです。しかし、もし「資本家」として成功したいという思いが少しでもあるのなら、この時間とリターンのバランスをどう取るか、という視点は決して忘れてはならないのです。

 

 

どこまで自分でやる?そのラインの判断は?

このバランスをどう判断すればよいのか。まず、不動産所得というのは、多くの方にとって、あくまで「副業」であるべきだと私は考えています。

 

特にまだお若い方は、ご自身の本業の仕事があり、そこで得られる給料や築き上げていくキャリアというものがあります。ご自身の時間のうち、少なくとも8割、できれば9割くらいは、その本業に使うべきではないでしょうか。そして、残った10%の時間で、何かしらの資産運用をしていく、というのが理想的な姿だと思います。

 

仮に、自己資金1,000万円で築40年の古い物件を買ったとしましょう。おそらく、気になって仕事が手につかなくなるのではないでしょうか。物件は都心から離れた場所にあるかもしれず、見に行くだけで半日や1日かかってしまうかもしれません。「入居者は決まっただろうか」「何かトラブルは起きていないだろうか」と、毎日管理会社に連絡してしまうかもしれません。

 

それでは本末転倒です。私は、それはあまり良いアイデアだとは思えません。

 

不動産投資の最大の魅力の一つは「レバレッジ」が効くことです。融資を利用できるのであれば、それを活用して、できるだけ手間のかからないクリーンな物件を持つ。そういった形で、まずは着実に資本を増やしていくことを優先した方が、結果的に成功への近道になると考えています。

 

DIYに深く入り込んでいくと、それはそれで非常に面白いので、気づけば多くの時間を使ってしまいます。その結果、貴重な資本も時間も、一つの物件に集中して投下してしまい、事業としてのスケールが難しくなってしまうのです。

 

では、手間のかからない物件を持つことで生まれた時間を、何に使うべきなのでしょうか。

 

それはもちろん、ライフステージによっても異なります。多くの方には本業の仕事があり、家庭があり、お子さんがいるかもしれません。家族と過ごす時間は、何物にも代えがたい価値があります。

 

あるいは、ご自身の趣味の時間も大切です。私自身で言えば、ゴルフをしたり、ピラティスや筋力トレーニングをしたり、友人と食事に行ったりと、週に4〜5日は何かしらの活動をしています。

 

このように、時間をかけたいものと、かけたくないもの。この線引きを自分の中で明確にすることが、豊かな人生と資産形成を両立させる上で、非常に重要になってくるのです。

 

続きは、YouTube動画本編をご覧ください。

 

株式会社アーキテクト・ディベロッパー

代表取締役社長 木本 啓紀

ゴールドマン・サックス証券株式会社アジア・スペシャル・シチュエーションズ・グループに18年間在籍。ローン債権、債券、不動産、エクイティ、証券化商品、オルタナティブなどあらゆるプロダクトを対象とした投資業務を経験。その後、ソフトバンクグループ株式会社に転じ引き続き投資業務に従事。2019年9月 当社取締役に就任。その後、ソフトバンクグループを退職し、2021年9月 代表取締役CEOを経て、2025年7月代表取締役社長に就任、現在に至る。

X: https://x.com/kimoto_adi 

note: https://note.com/adi_hirokikimoto