不動産は、工場のように商品を増産できない「在庫が限られたビジネス」です。この絶対的な制約の中で、いかにして機会損失を防ぎ、パフォーマンスを100%に近づけるか。株式会社アーキテクト・ディベロッパー代表取締役社長の木本啓紀氏が、ゴールドマン・サックス出身の金融的視点に基づく緻密な「在庫理論」と、それを実現するために不可欠な現場の「人間力」について、入居率99%を支える独自の経営哲学を語ります。

不動産は「在庫が限られた商品」…だからこそ100%に近づける

前提として、私たちが手がける「リーシング」という業務は、一般的にイメージされる駅前の不動産店舗での接客とは異なります。私たちは物件オーナー(あるいは管理会社)の立場に立ち、街の仲介会社様と向き合うBtoBの業務が中心です。 「仲介会社様に、いかに当社の物件を優先的に扱っていただくか」。彼らがどのような目線で物件を埋めてくれているのか、その論理を理解することがビジネスの出発点となります。

 

なぜ私たちがこれほどまでに入居率にこだわるのか。それは、不動産という商品が持つ「在庫が限定されている」という特殊性に起因します。 一般的なメーカーであれば、需要が高まれば工場をフル稼働させ、製品を増産して売上を無限に伸ばしていくことが可能です。 ところが不動産はそうはいきません。一つのアパートに20室あれば、商品の上限はあくまで「20」です。どんなに人気があっても、明日すぐに部屋数を増やすことは不可能です。

 

つまり、不動産ビジネスの勝負どころは、「上限が決まった在庫(部屋数)において、いかに機会損失をなくし、稼働率を限りなく100%に近づけるか」という一点に尽きます。 ただ埋まればいいわけではなく、適正な条件で収益を最大化する。この「在庫の上限という制約の中で、パフォーマンスを極限まで高める」ことこそが、このビジネスの宿命であり、醍醐味なのです。

 

驚異の「空室22日」を支えるのは、現場の執念と信頼関係

この理論を実践した結果が、当社の実績に表れています。 現在、当社が扱う約4万室のサブリース物件は、人の入れ替わりが激しい単身者向けが中心です。年間で1万室以上が常に入れ替わっているにもかかわらず、退去から次の契約開始までの平均空室日数は「約22日」という、業界水準から見ても驚異的な数字で推移しています。

 

これを実現しているのは、建築から募集までを一貫して行う社内体制に加え、現場社員が持つ「機会損失を許さない」という強い執念です。 例えば、11月中旬の空室に対し「来年2月から借りたい」というお客様が現れた場合、契約を結ぶ管理会社もあるでしょう。しかし、それでは約2ヶ月半の「家賃が発生しない期間(機会損失)」が確定してしまいます。 当社の現場はそこで安易に妥協せず、12月から借りてくれる人を探すか、「もう少し早く契約開始できませんか」と粘り強く交渉を行います。契約ベースではなく「稼働ベース(日割り)」での収益を追求する。この徹底したプロ意識こそが数字の源泉です。

 

こうしたストイックな運営は、パートナーである仲介会社様との間に「心地よい緊張感」を生んでいます。 以前、ある仲介会社の方が「アーキテクト・ディベロッパーさんはプロ意識が高いので、扱う時は私たちも緊張するんです」とおっしゃっていました。 これは、私たちが「即対応」を徹底しているからこそ、相手にもプロとしてのスピード感を求めている証拠です。お互いにビジネスが円滑に進む良い緊張感が共有できているからこそ、優先的に紹介していただける関係が築けているのだと確信しています。

 

 

AI時代にこそ見直される「泥臭いコミュニケーション」の価値

最後に、今後の経営方針における「テクノロジーと人」のバランスについて触れておきます。 今、世の中ではAIによる自動化が進んでいますが、私たちが目指しているのは、お客様対応をすべてAIに任せることではありません。 「社内に持っている知識・情報の検索」はAI化し、経験の浅い社員でも即座に正解を引き出せるようにする。しかし、その回答を伝え、交渉し、関係を築くコミュニケーション自体は、あくまで社員という「人」が行う。これが当社の揺るぎない方針です。

 

現場の社員たちも「すべてAIにしたら、空室は増える」と語っていましたが、私も同感です。 相談のしやすさ、交渉の余地、そして「この担当者なら何とかしてくれる」という信頼関係。これらはAIには代替できない、空室を埋めるための最後のワンピースです。 社内の業務効率はデジタルで極限まで高め、そこで浮いたリソースを、人間にしかできない濃密なコミュニケーションに投下する。 そうすることで、仲介会社様や入居者様との絆を深め、結果として「入居率99%」という数字が達成され続けるのだと考えています。

 

これからも、データに基づいた緻密な戦略と、人間味のある熱いコミュニケーションの両輪で、オーナー様の資産価値を最大化してまいります。

 

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株式会社アーキテクト・ディベロッパー

代表取締役社長 木本 啓紀

ゴールドマン・サックス証券株式会社アジア・スペシャル・シチュエーションズ・グループに18年間在籍。ローン債権、債券、不動産、エクイティ、証券化商品、オルタナティブなどあらゆるプロダクトを対象とした投資業務を経験。その後、ソフトバンクグループ株式会社に転じ引き続き投資業務に従事。2019年9月 当社取締役に就任。その後、ソフトバンクグループを退職し、2021年9月 代表取締役CEOを経て、2025年7月代表取締役社長に就任、現在に至る。

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