家族のために真面目に働いてきたはずが、気づけば家庭に居場所がない。そんな孤独を抱える中年男性は少なくありません。そんななか、彼らがスマホの中に見つけた「推し」に夢中になり、やがて……ある52歳管理職の告白をみていきます。
パパ、気持ち悪い…娘に吐き捨てられた52歳管理職。家族に隠れて推し活、「月10万円投げ銭」していた父親の末路 写真はイメージです/PIXTA

父の秘密を知ったとき、娘は思わず声が出た

近年、健一さんのように「推し」を応援する活動、いわゆる「推し活」の一環として、ライブ配信サービスで「投げ銭(ギフティング)」をする人は珍しくありません。

 

株式会社GO TO MARKETが行った調査では、Webサービスでの投げ銭の利用率は13.9%です。利用者に対し、「投げ銭をしたことがあるサービス」を尋ねたところ、最も多かったのが「YouTube」で36.1%でした。また、投げ銭をする頻度については、最多が「年に1回未満」(22.9%)で、「月1回」(16.7%)、「月に数回」「年に数回」が同率(12.5%)で続きました。その一方で、「毎日」という人も8.3%おり、深くのめり込んでいる実態も伺えます。さらに、1回あたりの平均額では、「100~300円未満」と「300~500円未満」が同率(20.8%)で最多となりました。3,000円以上も12.5%と、多額の投げ銭になっているケースも珍しくないようです。

 

一方で、松井証券株式会社が行った調査によると、「推し活」をする人の64.0%が「悩みがある」と回答。その理由として最多は『推しに使える金額が少ない』(43.0%)、次いで『貯蓄ができない』(41.3%)、『共有できる友人がいない』(26.1%)、『仕事や家庭の時間配分』(23.9%)と続きました。

 

配信に夢中になるにつれ、健一さんはリビングで過ごす時間が減り、毎晩のように自室にこもるようになりました。由紀子さんも美咲さんも、当初は「仕事で疲れているのかな」と気に留めていませんでしたが、固く閉ざされた部屋のドアの中から時折聞こえてくる楽しそうな父の声に、次第に違和感を覚えていきます。

 

ある夜、美咲さんがトイレに起きた際、健一さんの部屋のドアがわずかに開いていることに気づきました。中からは、イヤホンをしているのか、ぼそぼそと話す父の声が聞こえてきます。

 

そっと中を覗き込んだ美咲さんの目に飛び込んできたのは、見たことのない父親の姿でした。ベッドの上でイヤホンをつけ、スマートフォンの画面を覗き込み、何かに熱狂している父。その画面を凝視すると、自分とさほど歳の変わらない若い女性が映っており、音声は聞こえませんが歌っているようでした。そして父は、その画面を必死になって連打していたのです。

 

父が投げ銭に夢中になっているのだと、美咲さんは瞬時に理解しました。普段の父親からは想像もつかないその姿は、生理的な嫌悪感を抱かせるのに十分でした。

 

そのとき、美咲さんは小さな物音を立ててしまいます。音に気づいた健一さんがこちらを振り返りました。バツの悪そうな顔をする父と、軽蔑の眼差しを向ける娘。数秒の沈黙の後、美咲さんは絞り出すように、こう吐き捨てました。

 

「パパ、気持ち悪い……」

 

翌日、美咲さんから昨夜の話を聞いたのでしょう、妻の由紀子さんから何をしていたのかを問い詰められました。健一さんが正直に、応援しているアーティストがいて、時には10万円以上の投げ銭をしていたことを告白すると、由紀子さんは呆れかえったそうです。「子どもには『無駄遣いをするな』と叱るのに」と、健一さんを咎めました。

 

「私が無趣味なことを日頃から心配していた妻は、『推し』がいること自体は肯定的に受け止めてくれました。ただ、教育費や住宅ローンで出費がかさむ中、さすがにやりすぎだとひどく叱られました」

 

この一件以来、それまで比較的緩やかだった家計管理は厳しくなり、健一さんの小遣いは月3万円に減額されてしまったとのことです。

 

[参考資料]
株式会社GO TO MARKET『投げ銭の利用率は13.9%、最も利用率の高いWebサービスはYouTube | Webサービスの投げ銭に関する調査(2024年3月)』
松井証券株式会社『「推し活」をしている3人に2人が抱えている悩みとは?推し活資金の捻出はポイ活、節約!さらには投資からも。』