家族のために真面目に働いてきたはずが、気づけば家庭に居場所がない。そんな孤独を抱える中年男性は少なくありません。そんななか、彼らがスマホの中に見つけた「推し」に夢中になり、やがて……ある52歳管理職の告白をみていきます。
パパ、気持ち悪い…娘に吐き捨てられた52歳管理職。家族に隠れて推し活、「月10万円投げ銭」していた父親の末路 写真はイメージです/PIXTA

ごく普通の父親が「月10万円の投げ銭」に至るまで

都内の中堅企業で管理職を務める田中健一さん(52歳・仮名)。絵に描いたような真面目な上司と評判で、20代で妻の由紀子さん(50歳・仮名)と結婚し、一人娘の美咲さん(16歳・仮名)を授かりました。これまで仕事一筋で家族を支え、週末には家族サービスも欠かさない、ごく普通の父親だったそうです。

 

「娘が小さいころは、本当によく懐いてくれました。どこへ行くにも『パパ、パパ』と。休みの日に公園に連れて行ったり、旅行に行ったりした思い出は、今でも私の宝物です」

 

健一さんは少し寂しそうな表情で語ります。高校生になった美咲さんとの関係は徐々に変化し、最近では会話が激減しました。たまに話しかけても「うざい」「別に」と素っ気ない返事が返ってくるだけ。いつしか、娘と妻、そして健一さんの間には、大きな溝ができてしまったといいます。

 

食卓を囲んでも、美咲さんはスマートフォンに夢中です。その隣では、母と娘が最近流行りの配信ドラマの話題で盛り上がっています。その会話に健一さんが加わることはできず、家庭内での居場所は失われていきました。

 

「誰も悪くないんです。娘が成長すれば親から離れていくのは当然ですし、女性同士で話が弾むのも分かります。頭では理解しているつもりでも、家族と一緒にいるときのほうが、かえってひどい孤独感を覚えます」

 

そんな虚しさを抱えていたある夜、健一さんはスマートフォンで偶然、ライブ配信アプリを見つけました。画面の向こうでは、プロのミュージシャンを目指すという20代前半の女性が、ギターを片手に拙いながらも懸命に歌っていました。

 

「私にも、学生時代にバンドを組んで本気でプロを目指していた時期があったんです。彼女のひたむきな姿に、忘れていた昔の情熱みたいなものが蘇ってきて……。それから彼女の配信を見ることが日課になりました」

 

そして数回目の配信の際、健一さんは応援の気持ちで1,000円のギフト、いわゆる「投げ銭」を送ってみました。すると画面に健一さんのアカウント名が表示され、彼女が「健一さん、ありがとうございます! すごく嬉しいです!」と満面の笑みで応えてくれたのです。その瞬間、健一さんの心は満たされていくのを感じたといいます。

 

それからというもの、健一さんは毎晩のように彼女の配信にアクセスし、投げ銭を繰り返しました。他の視聴者よりも高額なギフトを送れば、彼女はより長く、特別な感謝の言葉を返してくれます。「健一さんは一番のファンです」。その言葉が、家庭で得られなくなった自己肯定感を満たしてくれました。気づけば、月に10万円以上のお金を投げ銭につぎ込むこともあったそうです。もちろん、それは家族には内緒の深夜の秘密でした。