義実家の介護を自分事として考えることはできるのか?
介護が始まって3ヵ月が過ぎた頃、正輝さんの心身の疲労はピークに達していました。仕事の付き合いも断るようになり、趣味だったゴルフにも行かなくなりました。さらに、経済的な負担も重くのしかかります。介護サービスの自己負担分や、実家の光熱費、医療費など、毎月数万円の出費が家計を圧迫し始めたのです。
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、主な介護者のうち、要介護者等と同居している割合は45.9%ですが、別居の家族等が介護しているケースも12.1%存在します。また、介護者と要介護者等の続柄を見ると、子の配偶者が11.3%を占めており、配偶者の親の介護を担う人も決して少なくありません。
それはある土曜日の夜でした。その日も朝から実家で介護をしていた正輝さんが、疲れ切った顔で帰宅しました。そして、リビングでテレビを見ていた由美さんに、意を決したように切り出したのです。
「由美、すまないが、来週から週に1日か2日でもいい。親父のところへ行って、食事の準備を手伝ってくれないか。俺ももう、体力的にも精神的にも限界なんだ」
しかし、由美さんから返ってきたのは、耳を疑うような言葉でした。
「え、私が? でも、あなたのお父さんでしょ? 私が行くのは、何か違うんじゃないかしら」
その瞬間、正輝さんの中で何かが切れました。
「……ふざけるな! 俺の親であるのと同時に、お前の義理の父親だろうが! 俺がどれだけ大変な思いをしてるか、見て見ぬふりか!」
正輝さんの怒鳴り声が家に響き渡りました。由美さんは「そんなつもりで言ったんじゃ……」と困惑していましたが、一度噴き出した正輝さんの不満は止まりませんでした。それ以来、夫婦の会話はほとんどなくなり、家庭内の空気は凍りついたまま。翔太さんが「家庭崩壊」と表現するほどの深刻な状況に陥ってしまったのです。
親の介護は、ある日突然、誰にでも訪れる可能性がある問題です。介護を一人で、あるいは夫婦のどちらか一方だけで背負い込むことは、肉体的にも精神的にも、そして経済的にも大きな負担となり、今回のように家族関係に深刻な亀裂を生じさせる原因にもなりかねません。
一方で、義実家の介護に他人事のように見えてしまう由美さんの態度も、無理からぬことかもしれません。株式会社インタースペースが2023年に行った調査によると、「義両親に介護が必要になったときどうするか」と既婚女性に尋ねたところ、83.7%が「介護サービスにお願いしたい」と回答。9.0%が「自分や夫以外の親族に介護してほしい」と続き、「自分や夫が介護したい」の回答はわずか2.8%に留まりました。
このような状況下で親の介護に直面したとき、最も重要なのは一人で抱え込まないことです。まずは夫婦で、そして兄弟姉妹も交えて、今後のことや役割分担、費用負担について徹底的に話し合いましょう。「誰の親か」という議論ではなく、「家族の問題」として捉え、どうすれば家族全員の負担を軽減できるかを考える視点が不可欠です。また、地域包括支援センターといった公的な相談窓口を活用し、利用できるサービスを最大限に利用することも重要になります。
翔太さんは現在、両親の間を取り持ちながら、祖父の介護施設への入所を改めて検討しているといいます。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』
株式会社インタースペース『「義両親の介護問題」一体どうする!?介護サービスを利用?それとも自分や夫が対応?2,000人以上の意見が集まりました!』