親の老いや病を前にしたとき、家族の心は大きく揺れ動きます。特に、これまで支えられてきた存在が弱り、時に自分を攻撃するような言葉を放つと、その衝撃は計り知れないでしょう。介護は愛情だけでは支えきれず、時には介護者の心をすり減らしてしまう現実があるのです。
もう、家に帰りたくない…〈月収55万円〉48歳サラリーマン、夜の公園で嗚咽。心を病んだ原因は「同居する76歳母」のひと言

まさか、自分の母親が…

夜の公園で話をしてくれたのは、都内の中堅メーカーで課長職を務める鈴木はじめさん(48歳・仮名)です。月収は手取りで55万円ほど。独身で、都内の戸建てで76歳になる母親と2人で暮らしています。

 

「家に帰りたくないんです。怖いんです……」

 

うつむいたまま絞り出すような声で、はじめさんは語ります。これほどまでに帰宅を嫌がるようになったのは、ここ最近のこと。原因は、同居する母・敏子さん(76歳・仮名)の認知症でした。

 

はじめさんが母親の異変に気づいたのは、1年半前のことだといいます。最初は「また同じことを聞くな」程度の、加齢による物忘れかと思っていました。しかし、症状は徐々に進行。献立を思い出せなくなったり、鍋を焦がすことが増えたり。さらに性格が変わったかのようなふるまいをするようになったことをきっかけに、避けていた病院へ。それが半年前のこと。アルツハイマー型認知症との診断が下されました。

 

「頭では分かっていたつもりでした。でも、いざ診断されると、目の前が真っ暗になるというか……。母は昔から本当にしっかりした人で、私が小さかったころからずっと女手一つで育ててくれたんです。そんな母が、徐々に変わっていく姿を見るのは、正直、つらいです」

 

まだ日常生活を送ることはできますが、何かあると心配なため、週5日でデイサービスを利用しています。経済的な負担は大きいものの、「その分、安心を買っていると思えば安いものです」とはじめさん。それでも不安は募り、日中に何度か家に電話を入れることもあるそうです。

 

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、要介護者等からみた主な介護者で最も多いのが「(同居する)配偶者」(22.9%)。「(同居する)子」(20.7%)、「事業者」(15.7%)と続きます。在宅介護を受けている人は436万人ほどといわれているので、90万人弱の子が親の介護に従事している計算です。

 

「会社の同僚や上司は理解を示してくれています。でも、立場的にこれ以上迷惑はかけられない。介護と仕事、その板挟みで、精神的にどんどん追い詰められていくのを感じています」