利回りやリスク分散といったテクニカルな視点が注目されがちな資産運用。しかし、株式会社アーキテクト・ディベロッパー代表取締役社長の木本啓紀氏は、「投資で本当に大切なのは、自分のメンタルに対する理解とマネジメントだ」といいます。価格変動に一喜一憂せず、「精神的な負荷=メンタルコスト」をどう認識するか――投資を継続するうえで欠かせない「心の設計図」について、実体験をもとに語っていただきました。

投資メンタルは鍛えられるのか

「投資のメンタルは鍛えられるのか?」という問いをよく受けます。結論から言えば、鍛えるというよりも“慣れていく”ものだと感じています。

 

私自身、最初に不動産を購入したときは、ほんの些細なことにも神経をとがらせていました。たとえば、管理会社から修繕の連絡が来ただけで、「この費用はどれほどの負担になるのか」と、受け入れたくないこともありました。しかし、その1軒目をなんとか乗り越えると、不思議なもので感覚が変わってきました。毎月家賃収入を得るという経験を続けて、「なるほど、こういうものか」と思えるようになってからは、借り入れに対するハードルも徐々に下がり、2軒目、3軒目と視野が広がっていきました。

 

これは特別な精神力を持っているからでも、リスクへの耐性が高いからでもなく、経験を重ねた結果として、心が対応できるようになっていったということだと思っています。

 

重要なのは、同じリスクであっても、それをどう感じるかによって、受ける精神的なダメージはまったく異なるという点です。私はそれを「メンタルコスト」と呼んでいます。

 

たとえば、1億円を投資して1年後に1,000万円の利益を得るケースを考えてみましょう。仮にその間、投資対象の価格が何度も倍になったり、4分の1まで下がったりするような値動きだった場合、精神的な負担は非常に大きくなります。一方、月0.8%ずつのペースで着実に資産が積み上がっていった結果、同じ1,000万円の利益が出たとしたら、その過程でのストレスは格段に小さくなるはずです。その過程でのストレスは格段に小さくなるはずです。

 

この差がまさに、メンタルコストの正体です。日々の価格変動に心を乱されていては、本業や私生活にまで影響を及ぼしかねません。投資が生活の質を損なうものになってしまっては本末転倒です。精神的なキャパシティを超えない範囲でリスクを取るという意識が、継続的な投資活動において非常に重要だと考えています。

税金とどう向き合うか?

もう一つ、投資家のメンタルに影響する重要な要素として「税金」があります。税の仕組みは複雑で、なかなか一言では説明できませんが、実際に投資を行う上で避けて通れないものです。

 

現行の税制は、必ずしも合理的・一貫性があるとは言い切れません。むしろ、その多くは社会や経済の変化に応じて継ぎ足し的に制度が追加・修正されてきたパッチワークのような構造になっています。そのため、不自然な歪みも多く存在しています。

 

たとえば、不動産投資に関して言えば、家賃収入にかかる所得税は他の給与所得と合算されるため、所得が高い方であれば最大で50%近い税率が課されることがあります。一方で、5年以上保有した不動産を売却した際に得られる譲渡益には、原則として約20%の分離課税が適用されます。収益の性質は異なるものの、いずれも同じ投資活動から生じる収入であるにもかかわらず、課税方法がここまで大きく異なるのです。

 

こうした税制の歪みを冷静に受け入れるために私が重視しているのが、「通税感(つうぜいかん)」という考え方です。これは、税金を払っているという実感のことを指します。たとえば、給与からの天引きや消費税の総額表示によって、どのくらい税金を支払っているかが見えにくくなっている現状では、税に対する当事者意識が生まれにくくなります。

 

逆に、自分で確定申告を行い、年間の納税額を明確に把握するようになると、自然と制度そのものへの理解が深まり、政治や社会の構造に対する関心も高まっていきます。税金そのものは個人では変えられない仕組みかもしれません。しかし、そこにどう向き合い、どのような感情で受け止めるかは、各人の選択に委ねられています。

 

 

資産形成で求められる「内面のマネジメント」

資産形成というと、情報の収集力や金融知識が重要視されがちです。もちろんそれらは大切な要素ですが、私の考えでは、最も本質的に問われるのは自己理解です。つまり、自分がどの程度のリスクに耐えられるのか、どこまでの値動きなら冷静にいられるのかという「メンタルの設計図」を持っているかどうかです。

 

たとえば、私自身は初期の段階では株式や仮想通貨にも投資をしていましたが、数百万円単位の価格変動に過敏に反応してしまい、なかなか大きなポジションを取ることができませんでした。価格が一時的に上がっても「いつ下がるのか」という恐怖が勝ってしまうのです。これでは資産形成をスケールさせるのは難しいと感じました。

 

その点、不動産は借入を活用することで自己資金を温存しながら投資でき、毎月のキャッシュフローも比較的安定しています。この「安定収入」という心理的支柱があったからこそ、株式などリスクの高い資産にも挑戦する余力が生まれたのです。

 

結果として、メンタルの安定を支える収入のベースがあったことで、投資の全体戦略にも一貫性が生まれました。株式市場が下落しても、「不動産からの収入があるから慌てずに済む」と考えることができ、結果として冷静な判断を維持しやすくなったのです。

 

投資において成果を出すには、知識や戦略ももちろん必要です。しかしそれ以上に、「自分の感情にどう折り合いをつけるか」「リスクに直面したときにどう振る舞えるか」といったメンタルとの向き合い方が、投資の持続性を大きく左右します。

 

リターンの大小よりも、自分にとって「納得感のあるプロセス」を築けているか。資産形成とは、心との対話でもあるのです。

 

続きは、YouTube動画本編をご覧ください。

 

株式会社アーキテクト・ディベロッパー

代表取締役社長 木本 啓紀

ゴールドマン・サックス証券株式会社アジア・スペシャル・シチュエーションズ・グループに18年間在籍。ローン債権、債券、不動産、エクイティ、証券化商品、オルタナティブなどあらゆるプロダクトを対象とした投資業務を経験。その後、ソフトバンクグループ株式会社に転じ引き続き投資業務に従事。2019年9月 当社取締役に就任。その後、ソフトバンクグループを退職し、2021年9月 代表取締役CEOを経て、2025年7月代表取締役社長に就任、現在に至る。

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