お金の不安は、収入の多寡だけで決まるものではありません。むしろ、十分な収入があるからこそ、それを失うことへの恐怖が人一倍強くなることがあります。本記事では池田大介さん(仮名)の事例とともに、高収入世帯に潜む「お金の悪夢」の正体と、その解決策をFP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、内容の一部を変更しています。
休日は激安スーパーはしご、手を鬱血させながら特売品を大量買い…世帯年収1,400万円だが、45歳夫の「異常な節約癖」に妻うんざり。「お金が使えない悪夢」の正体【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ、世帯年収1,400万円でも「老後が不安」なのか

筆者のもとへ、一緒に相談にみえた香織さんのお話によると、「夫は、安いからといって特売のトイレットペーパーや洗剤などを大量に買い込みます。エコバッグで腕の血が止まるんじゃないかという量を持って帰るんです。食料品は、少しでも安いものをと、スーパーをはしごすることもしばしば。ときどき株式投資を行っているみたいですが、逆に損をすることもあります。自家用車は所有していませんし、生命保険には加入していません。家族で外食することもほとんどありません。私はなんだか窮屈な感じがして……。贅沢をするということではないのですが、もう少しゆとりを持って生活したいと思っています」とのこと。池田家の家計の問題点を探っていきます。

 

お金の不安の根本原因

大介さんが勤めた4社目の会社は、業績悪化の影響で所属していた課がなくなっています。そのことをきっかけに、退職せざるを得ない状況となりました。幸い、すぐに再就職先が決まりましたが、またそのようなことが起こるのではないかと思うと、つい節約をしてしまうようです。

 

確かに大介さんは現在、結婚、子どもの誕生、マイホーム購入と、順調な暮らしを送っています。しかし過去にはいろいろな苦労があり、また家族を想うからこその行動だと想像します。

 

一方で、お金は、本来は生活を豊かにするためのものであるはずです。

 

大介さんの不安な気持ちが少しでも軽くなるように、具体的に、どんなことにどのくらいのお金が必要か、目安を知ることをお勧めしました。そのうえで、毎月やボーナス時の貯蓄額に落とし込んで、計画的に準備していきます。

 

まず、緊急時の資金はどれくらい準備しておけばよいのでしょうか。緊急時の資金とは、予期せぬ事態が起こり、出費が多くなったり、収入が減ったりしたときに備えておくお金のことです。

 

大介さんは、会社に雇用される労働者であり、雇用保険の被保険者です。勤務先の会社が倒産して離職した場合、雇用保険から基本手当、いわゆる失業給付が支給されます。基本手当の日額は、原則として離職直前の6ヵ月に支払われた給与の合計を180で割った金額の50~80%です。令和7年8月1日現在、大介さんは、45歳以上60歳未満の区分となり、8,870円を日額の上限として受け取ることができます。雇用保険の被保険者であった期間が10年以上20年未満に該当する場合は、270日まで給付を受けられます。

 

病気やケガで会社を休まなければならなくなった場合は、支給のための条件を満たした場合に、加入している健康保険から通算1年6ヵ月まで傷病手当金を受け取ることができます。傷病手当金の金額は、原則として、支給開始前12ヵ月の各標準報酬月額の平均を3分の2にした金額です。

 

緊急時の資金としては、生活費の3ヵ月~1年分が目安といわれています。まずは、そのお金が準備されているかどうか確認してみましょう。

 

大介さん、あるいは香織さんに万一のことがあっても、残されたご家族が生活に困らないよう、生命保険についても検討が必要です。公的年金からは、老後に受け取る老齢年金だけでなく、支給の要件に該当すれば、障害年金や遺族年金を受け取ることもできる仕組となっています。香織さんの収入など、見込める収入を差し引いて、差額を生命保険で備えておくと合理的です。