高齢の親の金銭管理を、良かれと思って手伝っている家族は少なくありません。しかし、その行為がきっかけで、親との関係が修復不可能なほどに悪化してしまうケースも。献身的なサポートを続けてきたにもかかわらず、たとえば泥棒のように扱われる――その時、家族が感じる絶望と悲しみは計り知れません。
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親の財産管理、悲劇を生まないための事前対策

親の財産管理は、認知症などによる判断能力の低下に備え、多くの家庭が直面する課題です。内閣府『令和6年版高齢社会白書』によると、2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になるとされており、事前の対策が不可欠です。もし判断能力がすでに低下している場合は、家庭裁判所が後見人を選任する成年後見制度や、地域の社会福祉協議会が日常の金銭管理を支援する日常生活自立支援事業といった公的制度を利用できます。

 

しかし、最も大切なのは、親が元気なうちに将来について話し合い、対策を講じることです。たとえば、信頼できる家族に財産を託す家族信託を利用すれば、遺言では難しい細やかな希望も実現できます。また、将来に備えてあらかじめ代理人を選んでおく任意後見制度も有効です。より手軽な方法としては、金融機関の代理人カードを作成しておけば、家族が口座からお金を引き出せます。生命保険には、本人が請求できない場合に備え、あらかじめ指定した代理人が保険金を受け取れる指定代理請求制度もあります。

 

悲劇的なトラブルを避けるためには、親が元気なうちに財産管理の方針をオープンに話し合い、記録に残すことが何よりも重要です。いざという時に一人で抱え込まず、専門家に相談することで、家族を無用なトラブルから守ることにつながるでしょう。

 

[参考資料]

内閣府『令和6年版高齢社会白書』

政府広報『知っておきたい認知症の基本』