「夫の年金が多ければ、私の遺族年金も多いはず。万一のときも安心」。多くの人がそう考えがちですが、その思い込みは危険かもしれません。夫を亡くしたある妻が直面したのは、「遺族年金」に潜む落とし穴でした。いざという時に生活設計が狂わないよう、今知っておくべき3つのポイントとは?
えっ、遺族年金は1.5倍にならないの?〈年金月28万円〉72歳夫を亡くした妻、よくある「遺族年金の勘違い」に撃沈。年金事務所からの回答に膝から崩れ落ちた理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

多くの人が知らない「遺族年金」3つの落とし穴

複雑な年金制度。遺族年金においても、幸子さんのようなケースは決して珍しいことではありません。特に注意すべき3つの「落とし穴」をみていきましょう。

 

落とし穴①:「亡くなった人の年金総額」の3/4ではない

最も多い勘違いといえるのが、これです。遺族厚生年金は、亡くなった方が受給していた老齢厚生年金の報酬比例部分(現役時代の給与や賞与などに応じて決まる部分)の4分の3が原則です。国民年金である「老齢基礎年金」は計算に含まれません。したがって、「年金月額×3/4」という単純な計算は成り立たないのです。

 

落とし穴②:年金の「繰下げ加算額」は反映されない

受給開始を66歳以降に遅らせる「繰下げ受給」を選択すると、年金額は最大84%(75歳受給開始の場合)まで増えますが、この増額分は本人が生きている間の特典です。遺族厚生年金を計算する際には、この増額分は対象外となり、65歳時点で受け取るはずだった本来の年金額(繰り下げ前の額)を基に計算されます。

 

落とし穴③:自分の年金と両方を「満額」はもらえない

65歳以上で遺族厚生年金とご自身の老齢厚生年金の両方を受け取る権利がある場合、まずご自身の老齢厚生年金が全額支給されます。その上で、本来の遺族厚生年金の額から、ご自身の老齢厚生年金の額を差し引いた差額部分が、遺族厚生年金として支給されます。仮に、ご自身の老齢厚生年金の額のほうが多い場合は、遺族厚生年金は支給されません(0円となります)。

 

幸子さんのケースは、まさにこの①と②の落とし穴に当てはまるものでした。

 

このように、漠然とした知識のままでは、いざという時に生活設計が大きく狂ってしまう危険性があります。お元気なうちに、ねんきん定期便などでお互いの年金額の内訳を確認したり、年金事務所に相談に行ったりして、正しい知識のもとで万が一の際の家計について夫婦で話し合っておくことが、何よりも重要といえるでしょう。

 

[参考資料]
総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』
日本年金機構『遺族厚生年金』