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母が実家を相続するメリットとデメリット
親の高齢化が進む現代において、良かれと思った実家の相続が、将来的に大きな足かせとなる可能性は誰にでも起こり得ます。ここで配偶者である母が実家を相続する場合の一般的なメリットとデメリットをみていきましょう。
母が実家を相続するメリット
■居住権の確保
母親が実家を相続することで、これまで通り安心してその家に住み続ける権利が確保されます。高齢になってからの住環境の変化は大きなストレスになるため、これは大きなメリットです。
■相続税の軽減
配偶者が遺産を相続する場合、「配偶者の税額軽減(配-配偶者控除)」という特例があり、法定相続分または1億6,000万円までの財産には相続税がかかりません。また、「小規模宅地等の特例」が適用できれば、土地の評価額を大幅に下げることができ、相続税の負担を大きく軽減できる可能性があります。
■売却のしやすさ
所有者が母親一人となるため、将来的に実家を売却する際に、意思決定がスムーズに進みます。子どもたちが共有名義で相続する場合に比べ、全員の合意を取り付ける手間が省けます。
■遺産分割協議の簡略化
相続人が複数いる場合でも、「母親が実家に住み続ける」という明確な目的があれば、他の相続人の理解も得やすく、遺産分割の話し合いが比較的スムーズに進む傾向があります。
母が実家を相続するデメリット
■維持費の負担
実家を所有し続ける限り、固定資産税や都市計画税、火災保険料、そして経年劣化に伴う修繕費などが継続的に発生します。年金収入が主な高齢の親にとって、これらの負担は決して小さくありません。
■二次相続時の税負担増
母親が亡くなった際に発生する「二次相続」では、一次相続で使えた「配偶者の税額軽減」が使えません。そのため、子どもたちが相続する際の税負担が、一次相続の時よりも重くなる可能性があります。
■管理の手間と空き家リスク
今回の大輔さんのケースのように、母親が施設に入居するなどして実家が空き家になった場合、その管理は子どもたちの負担となります。建物の老朽化は進み、庭は荒れ、不法侵入や放火などの防犯上のリスクも高まります。
■相続登記の二度手間と費用
「父→母」「母→子」へと、二度にわたって所有権移転の登記が必要になります。その都度、司法書士への報酬や登録免許税といった費用がかさむことになります。
そして、今回の悲劇の引き金となったように、母親の判断能力が低下した場合、たとえ子どもであっても、その不動産を売却したり、担保に入れて融資を受けたりといった活用が一切できなくなる――「母に実家を相続させる」ことの最大のリスクといえるでしょう。
良かれと思った選択が、時として家族を縛る足かせに――大切なのは、相続を「点」で捉えず、家族の将来設計という「線」で考えること。親が元気なうちに、将来の介護や住まいについて本音で話し合う機会を持つことこそ、あらゆるリスクに備えるための第一歩であり、家族の絆を守ることにも繋がるといえるでしょう。
[参考資料]
法テラス『相続税・贈与税』
法テラス『成年後見』