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知らないと損をする「年金の落とし穴」5つのパターン
田中さんご夫婦が直面した「想定外の年金減額」。実は、こうしたケースは決して珍しくありません。年金制度は複雑で、知っているようで知らないルール、見落としがちなルールが数多く存在します。なぜ見込んでいた年金額と実際の受取額に差が生まれてしまうのでしょうか。年金制度に潜む「知っておきたい5つのポイント」を見ていきましょう。
(1) 「手取り額」で考えていなかった
年金は、給与と同じく「所得」です。そのため、額面全額が振り込まれるわけではありません。所得税や住民税、そして介護保険料や(年齢・所得に応じて)国民健康保険料などが天引きされます。この天引きを考慮に入れていないと、口座に振り込まれた「手取り額」を見て「減額された」と勘違いしてしまいます。
(2) 60歳以降の働き方による「在職老齢年金」
60歳以降も厚生年金に加入して働いていると、年金の一部または全額が支給停止になる「在職老齢年金」という制度があります。年金の月額と給与(総報酬月額相当額)の合計が一定額を超えると、その超えた額の半分が年金からカットされる仕組みです。定年後も嘱託などで働き続ける場合は注意が必要です。
(3) 「加給年金」の勘違い
厚生年金に20年以上加入している夫(または妻)が65歳になった時点で、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいる場合に支給されるのが「加給年金」です。いわば「年金の家族手当」のようなものですが、配偶者が65歳になると支給は停止されます。共働きで、夫婦がほぼ同時に65歳になるようなケースでは、そもそも対象外となります。
(4) 厚生年金基金・企業年金連合会からの支給分
過去に「厚生年金基金」に加入していた期間がある場合、その期間に該当する老齢厚生年金の一部は、国ではなく「企業年金連合会」などから支払われます。国の年金とは別に支給されるため、合算して考えなければなりませんが、国の年金通知だけを見て「少ない」と早合点してしまうことがあります。
(5) 「ねんきん定期便」の見方が不十分だった
「ねんきん定期便」に記載されている見込額は、あくまで「その時点までの加入実績に基づいて計算した額」です。将来の働き方や制度改正によって変動する可能性があります。また、前述の税金や社会保険料は考慮されていません。この見込額を鵜呑みにしてしまうと、実際の受取額とのギャップに驚くことになります。
田中さんご夫婦は、(1)の「手取り額で考えていなかった」というケースに該当したと話してくれました。
「税金のことをすっかり失念していました。給与から天引きされるのは当たり前なのに、年金も同じだという意識が抜けていましたね。ねんきん定期便を確認して、そこに記載されている金額だけを鵜呑みにしていました」(一雄さん)
原因がわかったところで、手取り額が想定より少なくなる事実に変わりはありません。
「楽しみにしていた温泉旅行は近場のものに計画を見直し、ガーデニングもまずは小さく始めようと二人で話しています」と、恵子さんは少しだけ笑顔を見せてくれました。
幸い、田中さんご夫婦は「年金にまつわる勘違い」に気づき、想定より実際の受取額が少ないと判明しても、生活を立て直すことが可能でした。しかし、勘違いが命取りになるようなケースもゼロではありません。年金は老後生活の生命線ですが、その制度は思いのほか複雑。人任せにせず、自分ごととして正確な情報を得ておくことが、安心して老後を迎えるための第一歩といえるでしょう。
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