いまや、大学生の2人に1人が利用する奨学金。「進学のためには、借りるのが当たり前」という空気すらあるなか、多くの若者が数百万円の「借金」を背負って社会へと巣立っていく。希望に満ちた社会人生活のはずが、実際には重い返済負担によってキャリア形成やライフプランが制約され、将来への漠然とした不安を抱えるケースは少なくない。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金の現状について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
38歳大卒男性、月収40万円の会社員だが…夜間・週末はスキマバイト、365日労働しなければ「ふつうの暮らし」が送れないワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

高校生「社会人の収支イメージはつかないが、スタートから借金300万のヤバさはわかる」

日本政策金融公庫の調査によると、日本の高校生が大学進学を諦める理由のうち、76.3%が「お金がないから」と回答している。これは、進学がいかにお金によって制限されているかを示す驚くべき数字だ。進学のために奨学金を利用しようと考えても、「借金」というイメージに二の足を踏み、結果として進学を断念する学生も少なくない。

 

実際、大学の学費は過去40年で急騰している。私立大学の年間授業料は約1.8倍、国立大学では約2.4倍にまで増加しており、近年の物価高騰も相まって、家庭の経済的負担は年々増加。そしてJASSOの「令和4年度 学生生活調査」によれば、現在大学生の55%、つまり2人に1人が奨学金を利用している。これは決して一部の人だけの話ではない。

 

筆者が実際に話を聞いた若者の中には、こんな声もあった。

 

「働きはじめてからの収支のイメージがつかず、実際どれだけ大変なのかがわからない。でも、300万円の借金から社会人生活がスタートするのは正直憂鬱だ」

 

これは、若者自身の問題ではなく、社会構造の問題である。だからこそ、優秀な人材を採用したいと考える企業こそが、奨学金返還支援制度を導入すべきだと考えている。この制度は、企業が従業員の奨学金返済を一部肩代わりすることで、経済的・心理的な不安を和らげ、仕事への集中やスキルアップに向けた自己投資、企業に対するエンゲージメント向上につながる。結果的に企業の人材確保や生産性向上にも寄与するのだ。

 

いま、求められているのは、「奨学金のせいで人生を諦める人を生まない」社会づくりである。お金の有無が学ぶ機会や人生の選択肢を狭めないように、民間企業が一歩踏み出すことが、その第一歩になると筆者は信じている。

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者