いまや、大学生の2人に1人が利用する奨学金。「進学のためには、借りるのが当たり前」という空気すらあるなか、多くの若者が数百万円の「借金」を背負って社会へと巣立っていく。希望に満ちた社会人生活のはずが、実際には重い返済負担によってキャリア形成やライフプランが制約され、将来への漠然とした不安を抱えるケースは少なくない。本記事では、Aさんの事例とともに、奨学金の現状について、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が解説する。
38歳大卒男性、月収40万円の会社員だが…夜間・週末はスキマバイト、365日労働しなければ「ふつうの暮らし」が送れないワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

父の死と奨学金─“借りなければ生きていけなかった”大学生活

東京出身で、現在は都内のIT企業に勤める38歳のAさん。高校生のころ、日本学生支援機構(JASSO)の第一種および第二種の奨学金を併用して申し込んだ。

 

当時、Aさんの周囲では「大学に進学するなら奨学金を借りるのが当然」という空気があった。親からもそういわれ、周囲の友人たちも同様に申し込んでため、「迷うことなく借りることにした」と話す。高校やJASSOから詳細な説明があったわけではなかったと記憶しているが、卒業後に自分で返していくのが筋だ、という認識は持っていたという。

 

しかし、Aさんの学生生活は予想外の出来事によって一変する。大学在学中に、父親が突然他界したのだ。父親の死後、Aさんは家賃や生活費をすべて自分で負担しなければならなくなった。アルバイトはしていたが、学業との両立には限界があり、生活費を賄うほど稼ぐことはできない。そのため、当初は学費のために借りたはずの奨学金を、生活費にも充てざるを得なかった。

 

「あのとき奨学金がなかったら、大学を続けられなかったと思う。借りていなかった生活は考えられない」と振り返る。

毎月3万5,000円の返済と、365日働き続ける日々

大学卒業後、Aさんは月額3万5,000円を返済することになった。新卒で小売業の会社に就職したものの、1年目の収入は決して多くなく、その中から一定額を奨学金に充て続けることは、精神的にも経済的にも大きな負担だった。生活が安定するどころか、毎月ギリギリの収支。貯金はおろか、趣味や交際費にまわす余裕もほとんどなかった。周囲と比べて劣等感を抱くこともあったという。

 

そんな状況を打開するため、Aさんは副業が認められている企業への転職を決意。新卒3年目のタイミングで、現在勤めているIT企業に転職した。副業がしやすい環境を選んだのは、奨学金の返済と将来への不安を少しでも和らげるためだった。

 

現在のAさんは、平日は本業に従事し、夜間や週末にスキマバイトをしている。365日、なんらかの仕事をしているという日々が続く。会社員としての月収は月収40万円。ようやく最近になって、少しずつ収入に余裕が出てきて、ずっと行きたかったフィットネスクラブに通いはじめたという。

 

「まだ貯金は始めたばかりです。毎日働いていても、ようやく少しだけ“自分のため”にお金を使えるようになった」と語るAさんの言葉には、これまでの苦労がにじむ。