(画像はイメージです/PIXTA)

かつては一部の富裕層に限られていた相続税の問題が、いまや都市部の一般家庭にも現実のものとなっています。基礎控除の引き下げや地価の上昇により、現金や不動産を持つ家庭ほど課税リスクが高まるなか、早期の対策が求められています。本記事では、不動産の活用や小規模宅地等の特例、不動産小口化商品など、いまから備えられる効果的な節税の選択肢を辻哲弥税理士がわかりやすく解説します。本記事は株式会社エールのWebサイトからの転載記事です。

人気が高まる「不動産小口化商品」

最近では、「不動産小口化商品」も相続税対策の一手として注目を集めています。これは、1口あたり100万円~数百万円といった単位で、複数の投資家が1つの不動産に共同出資する仕組みです。

 

信託受益権や匿名組合契約など、法律に基づく形で投資が行われることが多く、資産管理会社が物件の運用・管理を一括して行うため、投資家は手間をかけずに不動産投資の恩恵を受けることができます。

 

不動産小口化の主なメリットは以下のとおりです。

 

・小額から投資が可能:現物不動産のように数千万円を一括で出す必要がなく、資産規模に応じた柔軟な運用が可能。

・物件管理の手間が不要:物件の管理や入居者対応はすべて運営会社が行うため、相続人に手間がかからない。

・相続税評価額の圧縮効果:任意組合型や信託受益権のように小口化商品が「不動産として評価される場合」、現金に比べて評価額を低く抑えられることがある。

・分散投資が可能:複数の物件やエリアに分けて出資することで、リスクを分散しやすい。

 

一棟マンション購入や区分所有と比べて初期投資が少なく済み、物件管理の手間も不要なため、特に高齢者や法人経営者など、現金を寝かせている層にとっては「扱いやすく、かつ節税効果も期待できる選択肢」として注目されています。

 

不動産小口化商品である「ラヴィエール目黒不動前」の内観

不動産小口化商品である「ラヴィエール目黒不動前」の内観
 
 

不動産小口化商品の注意点

不動産小口化商品は、少額で始められ、相続税対策としても有効な選択肢ですが、いくつかのリスクが存在することも忘れてはいけません。

 

まず、流動性が高くない点に注意が必要です。多くの商品では中途解約や売却が難しく、資金が長期間拘束される可能性があります。また、家賃収入や運用益による分配金も保証されているわけではなく、経済情勢や入居状況に左右されるため、利回りが下振れするリスクもあります。

 

加えて、運営会社の信用リスクも無視できません。会社の破綻リスクや管理体制の不備が、投資資産の安全性に影響を与える可能性があります。

 

不動産小口化は便利な仕組みではありますが、内容を正確に把握し、税理士や不動産専門家と連携して導入を判断することが重要です。

ケーススタディ:実際にあった成功例

ある都市部在住の60代男性は、3億円の現預金を相続予定資産として保有していました。税理士のアドバイスを受け、うち1億5000万円を都心部の賃貸用不動産と不動産小口化商品に分散投資。結果、相続税評価額は約1億円まで圧縮され、約3,000万円の相続税が削減されました。

 

また、別の例では、小規模宅地等の特例を活用して、自宅敷地の評価額を80%減額。将来の納税資金も生命保険で確保し、家族に負担のない資産承継を実現しました。

「備えた人」だけが守られる時代へ

相続税は「相続が発生してから考える」では遅すぎます。評価を下げる、分散する、制度を活用する。そのすべてにおいて、早期の準備が最大の武器になります。

 

不動産は、単なる投資先ではなく、「守る」「遺す」ための戦略的な資産。現金を眠らせるのではなく、仕組みと制度を理解したうえで、資産をどう“かたち”にしていくかが問われています。本記事が、あなたとご家族の資産を守る第一歩になれば幸いです。

 

 

辻 哲弥

公認会計士・税理士