高齢の親を持つ多くの家族にとって、老人ホームの利用はひとつの選択肢。費用を工面し、ようやく安住の地を見つけられたと安堵したのも束の間、思いもよらぬ理由で退去を求められることがあります。
話が違うじゃないか!〈年金月8万円〉79歳母、〈月17万円〉で入居した老人ホームから「出ていけ」とまさかの強制退去。家族会議は紛糾、母が流した涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

母の年金は月8万円…在宅介護の限界と、きょうだいの決断

鈴木美咲さん(仮名・50歳)には、80代を前にした母親・良子さん(仮名・79歳)がいます。その良子さんが認知症で、最近、症状が進行し、老人ホームに入居するか否かで悩んでいるといいます。

 

「母、一人で暮らすのは、もう難しいかと……」

 

良子さんが受け取っている年金は月8万円ほど。数年前に夫(美咲さんの父)を亡くした後、実家で一人暮らしをしていました。しかし、認知症を抱えながらの一人暮らしは、子どもとしても避けたいところ。また、良子さんに貯蓄と呼べるほどのお金はなく、だからといって同居という選択肢も難しい状況でした。兄の徹さん(仮名・52歳)と、弟の浩さん(仮名・46歳)の3人で集まり、良子さんの今後について話し合うことになりました。それぞれが家庭を持ち、仕事や子育てに追われる日々でした。誰もが、金銭的負担を担うことに重圧を感じていました。

 

「うちには受験生の子どもがいる」

「うちもローンの返済が大変なんだ」

「お金が厳しいのはどこも一緒よ」

 

誰もが「できない理由」を口にするばかり。重苦しい空気が流れるなか、これまでも家族の調整役を担うことが多かった長女の美咲さんが、意を決したように「もう、施設を探すしかないんじゃないかな。お母さんの年金だけじゃ足りないから、不足分は私たち3人で分担するしかない」と訴えました。

 

生命保険文化センターの『2024年度 生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)』によれば、月々の介護費用は平均9.0万円。在宅介護では5.3万円、施設だと13.8万円です。もちろん、これはあくまで平均値であり、施設のグレードや必要な介護度によって金額は大きく変動します。

 

美咲さんは懸命に情報を集め、都心から少し離れた郊外に、認知症に対応し、月額17万円で入居できる有料老人ホームを見つけました。良子さんの年金8万円を差し引くと、残りは9万円。きょうだい一人あたり、月3万円の負担です。決して楽な金額ではありませんでしたが、同居・在宅介護に誰も手を挙げない以上、受け入れざるを得ない選択肢でした。

 

「私がいろいろと手続きを進めるから、それでいい?」

 

美咲さんの提案に、徹さんと浩さんは安堵の表情を浮かべ、黙って頷きました。こうして、良子さんの老人ホームへの入居が決まったのです。穏やかな環境で、専門のスタッフに見守られながら過ごす母の姿に、美咲さんもひとまず胸を撫でおろしたといいます。