年金収入で送る穏やかな老後。しかし、離婚した子どもが実家に戻ってくるといった予期せぬ事態は、その生活設計を大きく狂わせる可能性があります。子を思う親心から援助を続けるうちに、気づけば老後資金が底をついてしまうことも珍しくありません。
もう終わりです…〈年金月15万円〉70代夫婦を襲う地獄。出戻り長女に「いつまでいるの?」と聞けないまま、〈貯金1,000万円〉が底をつく

あの女に負けたくない……暴走する娘の見栄と消えゆく貯蓄

状況が少しずつおかしくなっていくのに、そう時間はかかりませんでした。美咲さんの元夫は、離婚後すぐに不倫相手だった女性と再婚。しかも、その女性には翔太くんと同い年の連れ子がいました。その事実が美咲さんの対抗心に火をつけたのです。

 

「翔太だけは、惨めな思いをさせたくない。あっちの家より、絶対に幸せにしてみせる」

 

その日から、美咲さんの言動は明らかに変わりました。元夫から支払われる養育費や慰謝料だけでは飽き足らず、「翔太の将来のため」という大義名分のもと、健一さんたちに金銭的な援助を求めるようになったのです。

 

最初は翔太くんの塾でした。「あの女の子どもが私立中学を目指しているみたいだから」と、都心でも有名な進学塾へ通わせ始めました。月謝は5万円以上。さらに季節ごとの講習や模試代が重くのしかかります。

 

「お父さん、ごめん。今月ちょっと厳しくて……。翔太の塾代、少しだけ立て替えてもらえないかな?」

 

要求される額は徐々に膨れ上がっていきました。しかし、老夫婦の収入は年金のみ。娘への援助は、そっくりそのまま貯金の取り崩しとなって跳ね返ってきます。あっという間に、赤字は常態化していきました。

 

美咲さんの要求は、教育費だけに留まりませんでした。「翔太には色々な経験をしてもらいたい」と週末には決まって遠出をし、「片親だからって、バカにされないように」と身につけるものにもこだわりました。その費用も無心するようになりました。

 

「いつまで、ここにいるつもりなんだ?」

 

健一さん、喉まで出かかった言葉も、美咲さんの追い詰められたような瞳を前に飲み込むしかありませんでした。しかし通帳の数字は正直です。1,000万円あったはずの貯金は、この2年足らずで半分以下になってしまったそうです。

 

(このままでは親子共倒れになってしまう)

 

意を決して「もう限界だ。もうサポートは無理だ」と伝えたという健一さん。美咲さんの反応が怖くて、顔をみないように背を向けていると、美咲さんは大声で泣きだしたといいます。

 

「どんなに対抗したところで、心が満たされることはないでしょう。本当は止めてほしかったんでしょうね。それなのに娘を憐れんでサポートしてしまった。初めから間違えていたんです、私たちが」

 

この一件以来、美咲さんは後妻に対抗することを辞めたとか。今は親子3世代で、慎ましやかに、楽しい日々を送っているそうです。

 

[参考資料]

厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」